●二人の夜
同じ部屋、同じ布団で向き合うふたり。
特に語り合う事も無く、何かするわけでもない。
(「は、早くこれを渡さないと……」)
やけに落ち着きがない様子で、銀司がそわそわとした表情を浮かべる。
永琳はそんな銀司を不思議そうに眺めつつ、彼が口を開くまでジッと待つ。
「えーっと、こ、これを!」
しばらくして銀司が顔を真っ赤にしながら意を決し、懐の中にしまっておいた小箱を渡す。
「……あ、はい……」
永琳はそれを見て頬を赤らめ、恥ずかしそうに受け取った。
何だか胸がドキドキする。
(「まだ、小箱の中身を見ていないのに、この胸の高鳴りは……」)
そして、その箱を開けた瞬間、永琳の表情が驚きに変わった。
小箱の中に入っていたのは、銀のペアリング。
それを見てふたりの顔が茹ってしまいそうなほど真っ赤になり、何も言う事が出来ない。
「「あ、あの……」」
そこで、ふたりの目が合った。
途端にフリーズするふたり。
何か言い出そうとするたび、恥ずかしさの方が勝ってしまい、ふたりの身体からは、もくもくと湯気が上がっている。
「ありがとうございます」
その沈黙を破ったのは、永琳だった。
永琳が微笑んでくれたおかげで、銀司の緊張も少し緩んで笑顔になる。
「い、今まで我は狐の人>超えられない壁>その他獣っ子だったのですよ。でも、永琳はその壁を突破した唯一にして一番の人なのですよ」
恥ずかしさのせいか、そっぽを向きつつ、銀司がゆっくりと指輪をはめた。
本当ならば、もっと別の言い方もあったのかも知れないが、いまの銀司にとってはこれが精一杯。
(「一年前までは自分と狐の人のどっちをとるかと聞かれ、狐の人って即答していたのに……。人って変わるものですね」
しかし、永琳にとっては、それがとても嬉しい事。
今ではお互いが、お互いの一番となっているのだから……。
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