●【夢の中】ではふたりだけ
「まるでデートみたいだぜ……」
蒼士は夢を見ていた。
夢の中で蒼士は愛するあかねとデートをしていた。
残念ながら、お目当ての金森と二人きりのカップルになる事が出来なかったので、そんな夢を見たのかも知れない。
現実では叶える事が出来なくなった思いを具現化するように、蒼士の妄想が風船のような大きく膨らんでいく。
「デートみたい、じゃなくて、デートでしょ」
あかねが理想の答えを返す。
蒼士が望んでいた対応。
思い描いていたデートのシチュエーション。
(「……まさかミニスカサンタ衣装を着てくれるとはな」)
彼にとって、それは予想外。
ただし、心の中では思い描いていた姿。
……何もかもが完璧であった。
「金森とデートできるなんて最高のクリスマスだ!」
クリスマスイルミネーションの輝く街並みを歩くふたり。
それで交わされるのは、ロマンチックな会話。
「まるで夢を見ているみたいだ」
幸せそうな表情を浮かべ、蒼士がボソリと呟いた。
「夢なわけけないでしょ」
あかねがニコリと微笑む。
……夢とは時に酷である。
蒼士はこの発言を聞いて、これが現実であると錯覚した。
「そう言えば、金森って小動物が好きだよな」
彼女の手を引き、動物園にむかう。
時間も忘れて、動物園を楽しむ、ふたり。
まだ、夜まで時間があると言う事で、隣にあった水族館も楽しむ。
本当の恋人同士のように手を繋ぎ、理想のデートを楽しむふたり。
今日の記念にデートの思い出を、次々とカメラに収めていった。
「こんなに楽しいクリスマスは初めてだぜ!」
絵に描いたような理想のデート。
蒼士はとても幸せだった。
(「こんな事……、夢じゃなきゃ体験できない。でも、これって現実なんだよな……」)
先程あかねに言われた言葉を思い出す。
『夢なわけけないでしょ』
彼女の言葉が心に響く。
(「……夢じゃないのか」)
蒼士が心の中で反芻する。
「……本当に夢を見ている気分だな」
そんな事を考えながら、蒼士は夢を見るのであった。
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