●…がんばれ?(続・いつもの光景)
緑の毛糸がコロンと転がり、編み棒が忙しなく動かされる。
ちまちまちまちまちまちまちま………。
もう何日も前から、一体どれくらいの時間をかけているのだろう。
今日はクリスマス当日だというのに、明月のマフラーは未だ完成の目途がたっていなかった。
「13、14、15……」
「なぁ……それ、いつ出来上がるんだ?」
「19、20……って、話しかけないで!」
紅星に突然話しかけられ、危うく編み目の数を間違えそうになった明月は、顔を上げぬままちょっぴり声を荒げると、またブツブツと呟きながら編み棒を動かしはじめた。
その様子を、軽く溜息をついて見つめる紅星。
ちまちまちまちま………。
ただ静かに、時間だけが流れてゆく。
明月のマフラーは、先程よりほんの少〜し長くなった気もするが、まだまだ完成までは程遠い。
「……肩凝った」
何時間も下ばかりを向いていたせいで、首も肩もすっかり怠くなってしまった明月は、編み棒を一旦手から離して大きな伸びをひとつした。
「………」
それを手に取り、じっと見つめる紅星。
かなりの焦りが伺える、若干ばらつきの目立つ編み目。きっと、今日中にどうにかしたいのだろうと思った紅星は、ちょっとだけその編み物を手伝った。
さくさくさくさくさく……。
「ちょ、ちょっと紅星!」
「え……?」
明月は、彼の手からヒステリックに毛糸と編み棒を奪い取った。
「何でそんなにサクサク編めるの! 信じらんない!」
「……ぁ、え?」
怒りの焦点はそこかよ……。
紅星は、奪われたマフラーと明月の顔を交互に見ると、少し疲れたように肩を落とした。
けれど明月は、そんなことなどまったく気付かず、ものすごく難しい表情のまま、黙々と編み物を続けていった。
マフラーは、先程よりはだいぶ長くなってきた。
けれど、まだマフラーと呼ぶには程遠い。
(「さてと、あと何時間くらいかかるかね」)
今日中には、多分編みあがらないだろう。
「なあ、茶でも淹れるか?」
「………」
完全に編み物に集中している明月からは、返事がない。
紅星は、やれやれといった風に軽く息を吐き出すと、ゆっくり炬燵から立ち上がり、キッチンへと足を向けた。
このくらいの手伝いならば、多分彼女もキレないだろう。
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