歯車・零香 & カイル・フレイル

●ホワイトクリスマス

 クリスマスの夜、零香とカイルは暖炉の前で過ごしていた。
 外は、しんしんと粉雪が舞うだけで、聖夜は静寂に満ちていて。室内にはただ、パチパチと火が爆ぜる音と、2人がホットミルクを飲む音が僅かに聞こえるだけだった。
 温かなホットミルクからの湯気が、部屋の中に消えていくのを見つめながら、カイルは胸が高鳴るのをこらえる。
(「な、なんか緊張してくるわ……」)
 ばくばくと心臓が飛び出そうになりながら、カイルは隣に座る零香を見る。
 いつものように仮面のまま、ホットミルクを飲んでいる姿に……意を決して、カイルは口を開いた。
「なあ、零香」
「なんでしょう?」
 小首をかしげる零香に向かって、カイルは一息に言い切った。
「わいは零香の事が好きなんや付き合ってくれんか」
 息継ぎすら忘れてしまう程の勢いで、そう告げて零香を見つめるカイル。彼の視線を受け止めて、零香は指先を伸ばして仮面に触れた。
 ――仮面が、外れる。
 今は、仮面越しじゃなくて、素顔のままで言葉を交わしたいと、そう思ったから。
 仮面を置いて顔を上げた零香と、カイルの視線が絡み合う。
「……喜んで」
 少しおどおどとした顔で、でも微かに笑って、そう頷き返す零香。その返事がとてもとても嬉しくて、カイルもまた笑みをこぼす。
「ほんま? ほんまか?」
 小さくガッツポーズまでしちゃうくらい、心底嬉しそうにするカイル。その姿にくすっと笑って、零香は両手を伸ばした。
 今度は、それをカイルの元に……伸ばした指先で、彼に触れる。
「うん……好き」
 囁いて、瞳を閉じて、零香はそっとキスをする。その行動に、驚いて目を見開いたカイルだったが、そのまま彼女の体を抱きしめる。
 ぎゅっと抱きしめて……抱きしめられて。
 もう1度、唇を重ねて、交わすのは長いキス。
「……好きや」
 やがて離れたカイルは、確かめるように、もう1度紡ぐ。
 見つめ合った互いの視線は、相手もまた同じ気持ちでいる事を教えてくれる。
 だから、2人はかけがえの無い大切な想いを胸に抱いて……もう1度、ぎゅっと抱きしめあった。

 好き、という言葉で胸をいっぱいにして。
 聖夜は静かに過ぎていく……。




イラストレーター名:仮。