月詠・アリス & 刑部・紀乃

●クリスマスの夜に

「アリスさん」
「……どう……しましたか」
 それは温室でのガーデンパーティの一幕。
「こういう行事には疎いのですけど、お祭りの夜を好きな人と過ごせるって素敵ですね」
 声を掛けられて視線を向けたアリスへ、紀乃は微笑みかけた。周囲にちらほらと見えるあかりは、紀乃のようにランタンを片手に持ってヤドリギを探す参加者のものなのだろう。シルエットが確認できる最寄りの参加者が男女のカップルなのは、男性はクリスマスの日にヤドリギの木の下にいる女性にキスをしても良いと言う言い伝えがあるからか。両方女性の場合はどうなるのか、とツッコむのは無粋だろう。
「寒くないですか?」
「まぁ、ここより寒い所に住んでいて雪女ですから」
 紀乃はアリスの手を握り、星空を眺めながら、問いかけた声に返ってくる答えを聞いた。木々の合間から見える夜空は、いっそう綺麗で。空気が澄んでいるからだろうか、星々はクリスマスを過ごす恋人達を祝福するかの様に瞬いている。
「あれのようですね」
 二人はどれほど歩いただろうか。紀乃が指輪を通したネックレスを片手で弄びつつもう一方の手で示す先には星と月の明かりに照らされるヤドリギの影が夜風に揺れていた。
「そのよう……ですね」
 ボソボソと答えて、アリスは紀乃と共にヤドリギの下へと近づいて行く。チラリと覗き見た紀乃の顔はにこにこと上機嫌の様だった。

「無事見つかって何よりでしたね」
 そして時間は流れ、ガーデンパーティーも幕を閉じた。二人も銀誓館学園内にある庭園を後にし、外気の寒さと別れを告げて暖かな室内にいた。先ほどとの共通点と言えば二人の頭上にヤドリギがあることと、未だクリスマスの夜であること。
(「喜んでもらってる模様で嬉しい限りです」)
 更にもう一つ、指輪を通したネックレスを片手で弄び紀乃が上機嫌であること。弄ばれるネックレスが自分の贈った誕生日プレゼントであることを横目で見、アリスは一つ頷くとトマトとレタスのサンドイッチを口元へと運ぶ。
「およめさんだから、いいですよね?」
「お嫁さんですか? ……ふむ」
 身を起こし、思い出した様に尋ねる紀乃に何処かデジャヴを感じながら、アリスは小さく首を傾げた。今度こそおねだりは成功したのだろうか。紀乃はアリスに向き直り、ゆっくりと顔を近づけて。
「むぐっ!?」
 下から割り込んできたものに口を塞がれる。この食感は。
「今度はハムですか……」
「ハムサンド……です」
 苦笑いする紀乃の言葉にアリスが頷く。やはり一筋縄ではいかない様だった。




イラストレーター名:杜乃