●After friendship, Before ……
友人達の恋の行方を見届けるため、円の誘いで出かけたダンスパーティの帰路。
美しい星空の下、静かな夜の公園。
寅靖は恋人と別れた失恋の傷を微かに残して迎えたクリスマス。
彼女と半日過ごして、その気遣いと優しさに救われた。
円はゴーストとの戦いで肩を並べ、背中を預ける事の出来る大切な仲間……。
いまのところ、恋愛感情と呼べるものは抱いていないが、これからの付き合い方次第でどうなるか分からない。
「何だかちょっと懐かしいな」
円は紅のハイヒールを脱ぎ捨て、ジャングルジムを上っていく。
とは言え、。彼女の格好は、膝くらいまでスリットが入った紅のシンプルなドレス。
見ている方としては、とても危なっかしい。
「落ちるなよ」
ジャングルジムにもれたかかり、寅靖が冗談混じりに声をかける。
彼女にはその必要が無いかも知れないが、念のため……。
「大丈夫」
円がウインクで答えを返す。
寅靖は万が一彼女がジャングルジムから落ちた時の事を考えて傍らに立つ。
そんな心配をよそに円がジャングルジムの途中まで上り、寅靖に笑顔を浮かべてゆっくりと腰掛けた。
彼女から貰った手袋と、娘のような友人から貰ったマフラーがとても暖かい。
まるで戦いで傷ついた心を癒してくれるかのように、じんわりと染み渡るような暖かさ。
「天辺で星を見たい気分なんだ」
ジャングルジムから空を見上げ、円がボソリと呟いた。
幸せな友人達の姿が脳裏を過ぎる。
本当は嬉しいはずなのに、少しだけ寂しい気持ちになった。
それは寅靖も同じだったらしく、友人達の幸福を喜びながら、彼女と同じ気持ちになっている。
「……珈琲でも飲むか?」
一瞬、寅靖は気の利いた言葉を言う事が出来なかった己の不器用さを呪ったが、いまさら悔やんだところで失った時間を取り戻す事が出来ない。
寅靖は公園に来る途中で買った珈琲の入った紙コップを彼女に渡し、先程まで着ていた自分のコートを彼女に着せた。
そして、幸せな友人達の姿を思いつつ、珈琲でささやかな乾杯……。
「ありがとう、な……。珈琲とコートのことだけじゃないぞ?」
彼から手渡された珈琲と、白いコートの上から気遣って掛けられたコートのぬくもりを感じつつ、円が寅靖に対して感謝の気持ちを送る。
違う痛みを抱えていても、それをあえて口にはせず、黙って傍にいてくれる有り難さ。
改めて彼と一緒に入れて、良かったと思う。
「――それは、俺の台詞だ」
彼女の言葉に一瞬、驚いた表情を浮かべ、寅靖がクスリと笑う。
いまはただ隣で微笑む事が、彼女の力になれる事だと思いつつ……。
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