夜刃・柊 & 蜩・加奈

●雪と蜜柑と温泉と

 雪がはらはらと舞う夜。
 ふたりは露天風呂に入っていた。
 湯船には蜜柑とお猪口が一つ乗ったお盆を浮かんでおり、いつもと少し違ったように見えている景色を眺めている。
「洋のクリスマスに、和の心……。これぞ、和洋折衷って感じよね。まぁ、テストに結社の運営にどたばたしてたし、たまにはこんなのも悪くない……でしょ?」
 温泉に浸かって日頃の疲れを癒し、加奈が彼女の同意を得ようとしてニコッと笑う。
「はい、蜩さん」
 あまり表情が変わらないので、そこから感情を読み取る事は難しいが、どうやら彼女も喜んでいる様子。
「……でしょ? 幸いここは穴場中の穴場だから、誰かに邪魔をされる心配もないしね。ここで別の温泉を選んでいたら、カップルと鉢合わせになっちゃったり、マナーの悪い温泉客と一緒にいなきゃならなくなるから、気まずい雰囲気を味わっていたかも知れないんだけどね。この温泉を見つけられた幸運に感謝しなきゃ」
 幸せそうな表情を浮かべ、加奈が温泉にまったりと浸かる。
 予約した温泉の宿泊客がたまたま少なかった事もあり、加奈達が浸かっている温泉は、ほとんど貸し切り状態になっていた。
「確かに、こうしていられるのって幸せです」
 納得した表情を浮かべ、柊が真っ白な息を吐く。
「そろそろ、一杯どうですか?」
 加奈にお猪口を手渡し、柊が蜜柑ジュースを手に取った。
 ふたりとも、まだ未成年なので、お酒は厳禁。
「あっ、それじゃ、遠慮なく」
 恥ずかしそうに頬を染め、加奈が彼女からのお酌を受ける。
 ……それでも何だか大人になった気分。
 間違っても蜜柑ジュースで酔っ払う事はないが、それに近い雰囲気を楽しむ事が出来そうだ。
「んじゃ、今度はこっちの番ね」
 満面の笑みを浮かべながら、加奈が彼女にお猪口を渡す。
「あっ、私は別に……」
 遠慮がちに断る柊。
「こういう場所で遠慮はしない。2人分用意したんだから、ね」
 彼女を諭すようにして語りかけ、加奈がニコッと優しい笑顔を浮かべた。
「はい、それじゃ」
 柊もその笑顔につられてお猪口を差し出し、蜜柑ジュースを口に含む。
 この雰囲気がそうさせているのかも知れないが、蜜柑ジュースの味はいつもと違っているような錯覚を受けた。




イラストレーター名:椎鳴みなづき