宇土・木人 & 君影・鈴蘭

●小さいけれど大きな一歩

 カップル達で溢れるクリスマスの公園。
 人半分の隙間を空け、ベンチに座る、ふたり。
 それからしばらくの間、ベンチに座って、他のカップルを観察。
 まわりのカップル達は、他人の目も気にせず、抱き合ったり、キスをしたりしている。
 ……ひとりは秘密組織上がり。
 そして、もうひとりは記憶喪失。
 そのため、普通の恋人が、どんなものなのか、まったく知識も無い。
 ふたりとも真面目な顔で、じっと分析……。
 みんな、信じられないほど、大胆だった。
「恋人同士になると、こんな事までするんですね」
 信じられない様子でカップルを眺め、木人がダラリと汗を流す。
 今まで未知のベールに包まれていた事なので、彼にもどこまでが普通の事なのか、判断がつかない。
「まさか、今日がクリスマスだから……ってわけじゃありませんよね」
 緊張した表情を浮かべ、鈴蘭がゴクリと唾を飲み込んだ。
 自分達も同じような事をしよう、と思っていたので、その事を考えただけで、全身が燃え上がるように熱くなった。
 ハッキリ言って難易度が高すぎる。
 どうして、ここまで人前で大胆になれるのか、ふたりには理解する事が出来なかった。
 それでも、ここまできて、後戻りは出来ない。
 しばらくまわりのカップルを観察し、恋人同士が何をすべきか、学んだところで、深呼吸……。
 いざ実行とばかりに振り返って、お互いの顔を見合わせた。
 途端に鈴蘭が目を逸らし、恥ずかしそうに頬を染める。
(「は、恥ずかしい……」)
 木人の事は好きだが、人前でそこまで大胆にはなれない。
(「どうやら、同じ気持ちのようですね」)
 彼女の気持ちを察し、木人が少し迷った表情を浮かべ、そっと手を差し出した。
 お互いに手を繋ぎ、鈴蘭が肩を預ける。
 いつの間にか、人半分の隙間は埋まっていた。
 そういう意味で、ふたりの関係は一歩前進したのかも知れない。




イラストレーター名:マメ太