●時とことばの積もる音
しんしんと雪が降りしきる真夜中。
沢山の雪が積もったモミの木の森の中にふたりはいた。
そこはクリスマスの少し前にモミの木の苗を植え、『毎年クリスマスは、この木の成長を一緒に見よう』という約束をかわして埋めた場所。
ふたりはその場所が間違っていないのか確認するため、光源に持参したランプの明かりをぽんやりと照らし、ようやくモミの木の苗を見つけ出す。
まだ小さくて頼りない印象を受けるが、これが自分達の植えたモミの木である事は間違いない。
ふたりが付き合い始めたのは、去年のクリスマス。
(「もう、1年にもなるのか」)
そんな事を考えながら、良が足元にランプを置き、木の根元に埋めておいた小箱を掘り出した。
その小箱にはシンプルなペアリングが入っており、月明かりを浴びてきらりと光る。
「これ、受け取ってくれるかい?」
ゆっくりと小箱からペアリングを取り出し、良が優しく彼女に微笑みかけた。
「貰っていいの?」
指輪が彼とペアだった事に喜びを覚えてコクンと頷き、小織が確認するようにして口を開く。
「駄目なわけ無いだろ。それじゃ、じっとしてて」
まずは自分の指に指輪をはめ、良がそっと彼女の手を取り、左手の薬指に指輪をはめる。
小織はその光景を少し不安げに眺めていたが、良にぎゅっと抱きしめられて、胸がどきっと高鳴った。
「これと一緒に、言いたかった言葉がある。……あのね、小織」
肩口の辺りに彼女の顔を埋め、良が耳元でそっと囁きかける。
小織は耳元で聞こえる良の声が、少しくすぐったいと感じながら、さらに胸をどきどきさせて聞き入った。
「あいしてるよ」
ゆっくりと顔を上げた彼女と目を合わせ、良が子供のような満面の笑みで告白をする。
その言葉を聞いて小織が一瞬、驚いたような表情を浮かべて、息を止める。
彼と見詰め合ううちに、じんわりと胸にしみこんでいく、言葉。
思わず泣き出しそうになりながら、何とか頷いて微笑みを返す。
「良……」
とうとう堪える事が出来なくなり、小織が彼の名前を呼んで首元に抱きついた。
そして、同じ思いを伝えるキスを耳元にする。
苗木と共に2人で年輪を重ねて行けたら、と思いつつ……。
そんなふたりを祝福するようにして、空からポツポツと雪が降り始めた。
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