前鳥・あるか & 夜刀守・霞月

●Feel so Happy…?

「ごめんなさい」
 雑踏の人混みの中、肩がぶつかったあるかは通行人に軽く頭を下げた。
「ついてきたければ、ついてこい」
 言い放ち、霞月が背を向けたのは五分も前のことではない。にもかかわらず、むっとしつつ追いかけるあるかの視界の中で霞月の背は小さくなりつつあった。クリスマスということもあってか霞月とあるかの二人が歩く道も人で溢れていて、気を抜けば見失ってもおかしくは無い密度だ。人の流れを必死で泳ぎ、追いかけたかいもあってか二人の差は幾分縮まったが、並んで歩くまでには至らない。
「やと……、おい」
 呼びかけては見たが、まるであるかの言葉など聞こえていないかの様に霞月はただ歩くだけ。引き離されそうになった時に、霞月の歩くペースが若干落ちていた気もしたのだが、あるかの気のせいだったのかも知れない。霞月はにこりともせず、ただ黙々と歩き続ける。もっとも、あるかも引き離されまいと後を追い、歩行者用の赤信号にも助けられて再び引き離されることはなかったのだが。
「っ、あ……」
 ささやかなアクシデントは信号機が青に変わって起こった。交差点を斜め横断しようとする人の波があるかをさらいかけたのだ。信号待ちしていた霞月が向く方向と人の流れは別方向。
「や……」
「(手がかかるな)」
 流れに逆らおうと、身体の向きを変えようとするあるかは霞月の声を聞いた様な気がした。
「なん……」
 上げようとした抗議の声を視界の端に飛び込んできた光景が阻む。スッと伸びてきた霞月の手があるかの手を掴んで流れから引っ張り出した。
「やと、さっき……」
 声を掛けられているのはわかるはずだったが霞月は声を無視し、再び歩き始める。続く抗議の声も無視して。

「…………ぁ」
 それから十数分歩いただろうか、目の前に広がった光景にあるかは一瞬言葉を失った。木々や茂みが電飾を纏い光の海と化していたのだから。公園を彩るクリスマスのイルミネーションは、ブルーの淡い色調で公園全体を淡く輝かせる。おそらくあるかは気づかなかっただろう、自身の見蕩れる様子を一瞥して霞月が顔には出さず笑ったことに。
「やと、さっきわたしの……」
 霞月を窺う複雑そうな表情がそれを物語っていた。




イラストレーター名:稲穂みなと