●これからも、ずっと一緒に…
「わぁい、大きい……」
耳に聞こえるのは華蓮のはしゃぐ声。おそらくクリスマスツリーのことなのだろう。華蓮にとっては銀誓館で初めてのクリスマスだ。電飾に輝くツリーは高く聳え、ツリーが指す空からは白いものが舞い降りはじめている。雪。今年もホワイトクリスマス、そう言うことなのだろうか。
「……ふぅ」
忍は目を閉じたままため息をつく。別に眠い訳ではない。ただ、過去を思い出していただけ。目を開くと、脳裏を過ぎる過去の記憶から飛び込んでくる景色へと見る光景を切り替える。どちらにも変わらず存在するのは、義妹……華蓮の姿。
「俺が関ってなかったらどうなっていたやら?」
義兄と義妹になったのは他愛ないやりとりがきっかけだった。世間知らずで何かと危なっかしい存在、同時に愛おしくもあって。二人の関係が更に変わったのはいつの頃からだろうか。
「どうしたの、お義兄ちゃん?」
「いや、ちょっと俺等が初めて会った時の事を思い出してね」
再び回想に突入しかけた思考を現実に引き戻したのは、頬に触れた雪の冷たさと、華蓮の声。きょとんとした表情を浮かべる華蓮へ何でもないと言う様に忍は手を振ろうとした。
「お、お義兄ちゃん?」
うわずった声が耳元で聞こえたのは、衝動が知らぬ間に華蓮を抱き寄せていたから。目の前には頬を染めた華蓮の顔があって。
「華蓮」
無意識にでた言葉に、続く形で再度忍の口が開く。
「これからも沢山いい思い出作っていこうな」
言い終えた後に訪れる沈黙。間を埋める様に白い雪はヒラヒラと周囲に舞い降りて、土に触れば溶けて水へと変わる。
「ずっと」
沈黙を破る声は華蓮の口から零れた。抱き寄せられたまま、忍を見上げ静かに言葉を紡ぐ。見上げれば、忍と目があって。
「ずっと一緒だからね、お義兄ち……」
続けようとした言葉が最後まで発せられることなく。暖かな沈黙が強いられる。未だ降り続ける雪すら寒さを感じさせぬ様な。
今年も雪は降る。
だが寒さを感じる事はなかった。
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