夏目・凛 & 桐嶋・浅葱

●雪花の候

 雪がはらはらとちらつく中、二人で過ごす静かな聖夜。
 桐嶋家の庭には、蝋梅、山茶花、南天、寒椿など、冬の花々が咲いている。
 澄んだ空気の中、庭の花々を愛でるため、夏目が縁側からひとりで外に出た。
 ……夏目の身体に落ちる雪。
 じんわりとした寒さのせいで、夏目の吐く息は白い……。
(「……雪か」)
 屋内で茶の準備をしていた桐嶋は、ふと窓の外に視線を移し、雪が降っている事に気づく。
 その中で夏目はまるで子供のように無心で、庭の花々を眺めていた。
 真っ白な息を吐きながら、外の寒さを気にする事無く、夏目が目の前にある花に手を伸ばす。
 その間も雪は辺りの花々を覆い隠すようにして、すべてを真っ白に染めていく。
(「あんな薄着で外に……」)
 心配した様子で朱色の傘を手に取り、桐嶋が縁側から庭に降りていく。
『風邪を引くぞ、中で茶でも淹れよう』
 そんな言葉が口から漏れそうな表情を浮かべ、桐嶋が彼の頭上に開いた傘を差し出した。
 夏目を見守るようにして、桐嶋が穏やかな笑みを浮かべる。
 滅多に見られないような優しい笑み。
 ……そこに言葉は必要ない。
 互いの表情をみれば、何を言いたいのか、理解する事が出来る。
 それだけで夏目は、彼の気持ちを理解する事が出来た。
「ありがとうございます」
 少し照れたような表情を浮かべ、夏目が嬉しげな笑みを浮かべる。
 夜の庭に映える雪と花……。
 ふたりでしばらく庭の花々を眺めた後、ゆっくりと並ぶようにして、縁側から部屋の中に入っていく。
 互いに佳き聖夜を一緒に過ごせる事への感謝を胸に秘め……。
 時折交える視線に、無言の信頼と、親愛を込めて……。
 言葉にならない気持ちを抱え、ふたりで交わす他愛の無い会話。
 例え言葉に出さなくても、お互いの気持ちが分かり合える。
 その中に、満ち足りた幸福を感じつつ、ふたりは聖なる夜を過ごすのだった。




イラストレーター名:七夕