拝・一途 & 氷蜜・ノア

●たまにはこういうのもいいんじゃないですか?

 街は光に包まれていた。街路樹は電飾に飾られて光の木と化し、ビルにはり付いた大型テレビの画面は光を溢れさせ、幾つかのCMを挟んで連続で邦楽曲を流し続けている。行き交う人々は様々、会社帰りらしいサラリーマンやOL、腕を組んだ恋人達。クリスマスだけあって街は賑やかで人は多い。
「何でこんなに人が群れてんだよ……」
 もっとも、人混み嫌いにとっては思わずため息の一つもつきたくなるような光景だった。眉を寄せたノアは険しくなりつつある目でに目の前の人混みを見ている。どう見ても不機嫌モードの一歩手前だ。
「ノア」
「ん、何?」
 ノアの心境を察して一途が声を掛けてみると、返ってきた声は僅かな棘を帯びている。どうやら一途の推測はほぼ当たっていたらしい。
「……たまにはオレも手とか繋いでみたいんだけど」
「はぁ? なんで、手繋ぐんだよ」
 完全に不機嫌になる前にと一途は一つの提案をしてみるが、返ってきたのは許可ではなく理由を問う声。答えることは用意だったが、流石に気を紛らわす為だとは言えない。もちろん理由はそれだけではないのだが。
「嫌か?」
「嫌じゃねーけど……恥ずかしいし」
 短く問い返す言葉へにノアは珍しく、そっぽを向きハッキリしない拒否寄りの意思表示をする。
「ちょ……」
 ただ、そっぽを向いたのは失敗だったのかも知れない。目を離した隙に一途の手はノアの手を強引に捕まえていたのだから。
「(あまりだだこねるとその唇を塞ぐぞ)」
 驚きが拒否と抗議に変わるよりも早く、一途はノアを引き寄せ耳元で囁いた。
「くちび……わかったよ」
「あぁ、腕組みでもいいな」
 脅しがきいたのだろう。渋々ながらも承諾の一言を受けて、一途が手を離すとノアはその腕に自身の腕を絡ませてくる。顔だけはそっぽを向いていたが、それが赤面を隠す物であると言うことは微かに見える横顔……頬の色でわかる。
「……バカっこ」
 そっぽを向いたノアにバカ呼ばわりされつつも一途はしてやったりと笑みを浮かべ、歩き始めた。冬で夜、寒い要素は幾つもあるのに伝わってくる温もりが何処か寒さすら忘れさせてくれるようで。一途はご満悦だった。




イラストレーター名:七夕