ユーリ・クライスラー & セイカ・セイングラント

●本番は10年後に……?

 クリスマス当日。
 ユーリとセイカは双方の好きな猫喫茶に行ったり、雑貨屋さんに行ったりして、楽しい時間を過ごしていた。
 しかし、ユーリが女装しているせいで、カップルというよりも、一見すると友達同士のようにも見える。
 その帰り際に教会を見つけ、何気なく中を覗き込むと、……誰もいない。
 『聖なる夜だし、ちょっと特別な事をしたい』という事になり、ふたりは誰もいない教会の中で、結婚式ごっこをする事になった。
「むー……、ユーリ君の方が花嫁っぽいの」
 納得の行かない表情を浮かべ、セイカがユーリをジト目で睨む。
 ユーリの格好が真っ白なゴスロリのワンピースだった事もあり、見方によってはウェディングドレスのように見えなくもない。
 そのため、ユーリはデート中に買ったレースのテーブルクロスを、ショートマリアベールに見立て、セイカにゆっくりとかける。
 そして、セイカがデート中に買ったおもちゃの指輪を、小さな聖卓の上に置き、ふたりだけの結婚式が始まった。
「あははー、誓いの言葉って、なんていうのだったっけ?」
 彼女を見つめて笑みを浮かべ、ユーリが何とかして誓いの言葉を思い出そうとする。
 おぼろげだが何となく頭の中に浮かんでいるのだが、色々と長々しい言葉だったような気もするので、ハッキリと思い出す事が出来ない。
「えっとね、私達幸せになりますっぽいことを言えばいいと思うの」
 『この際、細かい事は気にする必要がない』と思ったため、セイカが満面の笑みを浮かべて答えを返す。
「よし、じゃあ、セイカを幸せにするよ!」
 ユーリも納得した様子で指輪を手に取り、躊躇う事無く誓いの言葉を述べる。
 セイカも『私も〜♪』と即答し、左手を出すべきか、右手を出すべきか、……迷う。
 どうやら、指輪を薬指にはめる事は知っていても、どちらの指か、それとも両方差し出すものなのか分からず、戸惑っているようである。
 だからと言ってここで中止にするわけにもいかないため、とりあえず利き手である右を差し出した。
 その途端、入り口のドアがガチャガチャと音を立て、ふたりが驚いた様子でビクッと身体を震わせる。
 そして、ふたりは『せっかく良いところだったのに、残念』と思いつつ、誰にも気づかれないようにして、そそくさと教会から逃げ出すのであった。




イラストレーター名:みなと