寺尾・晶 & 晶のフランケンシュタイン

●傭幼馴染心得:一生忘れられないクリスマス…

 それは、いつもと同じような何でもない日々の1つ。
 でもきっと、いつか振り返る暖かい欠片の1つ。
 そう……今宵はクリスマス。
 子供がサンタに想いを馳せ、恋人達が身を寄せ合うこの夜に、ケンカを始める2人の姿。
 どうやら、ちゃぶ台の上に載った料理が元でケンカをしているらしい。
「しょうがないじゃん! ケーキ売り切れだったんだよ!」
 そう言ってちゃぶ台を叩く晶。どうやら、ちゃぶ台の上に載っているバームクーヘンはクリスマスケーキだったらしい。
 小さなバームクーヘンに刺さったキャンドルが、その侘しさを更に確たるものにしている。
 こうなれば、いっそ刺さないほうがマシかもしれない。
 確かに。こんなバームクーヘンをクリスマスケーキと言い張られては、さすがのU次郎も納得しがたいだろう。
 クリスマスは一年に一回しかないのだから。
「そういう自分だってそれのどこがチキンなのさ!」
 続けて晶は、ちゃぶ台の上に置かれた焼き鳥のネギマを指さす。
 確かにチキン……鶏肉だ。
 鶏肉だが……クリスマスチキンではない。
 これをクリスマスチキンとは、晶としても認め難い。
 互いにちゃぶ台を叩きながら互いの用意した料理を指さす2人。
 どっちもどっちという言葉が非常にお似合いだ。
 このメニューではクリスマスどころか、一般家庭のお酒のおつまみになってしまう。
 妥協の招いてしまった事態だが、こうなってしまっては簡単に譲れない。
 しばらく睨み合いを続けると、互いにフン、と顔を背ける。
 そのまま冷戦が続くかと思われたものの……突然グゥ、となる晶のお腹。
 思わず赤くなって振り向くと、U次郎が困ったように頭をかいているのが見える。
「あ、あはは……」
 一気に柔らかくなった空気の中で、U次郎が申し訳なさそうにネギマを晶に差し出す。
「ごめん、U次郎。ぼくも悪かったよ……あとで、またケーキ探しに行ってみるよ」
 ちょっと冷めてしまったネギマを口にすると、甘いタレの味が広がっていって。
「じゃあ、メリークリスマス!」
 そう言って、乾杯をかわす。
 きっと一生忘れられないであろうクリスマス。
 けど、その思い出は……とても、暖かい。




イラストレーター名:土方