奇亜求・智明 & 風菜・詩火

●夜の雪

 今年は恋人と一緒に過ごすクリスマス。
 ふたりにとって、それが何よりも嬉しい事。
 なるべく人気の無い場所を選び、そこにあった大木に腰掛ける。
「……雪……」
 ポツポツと雪が降り始めた事に気づき、詩火が何気なく手にとって夜空を見上げた。
 雪が降っているせいもあり、ふたりとも身体が冷たくなっている。
「……雪ですか……」
 彼女の声につられて、智明も一緒に空を見上げた。
 そこで彼女に寄り添い、冷えた身体を暖める。
「……マフラー編んだの……」
 いまがプレゼントを渡すタイミングだと思い、詩火が持参した袋からマフラーを取り出した。
 そのマフラーは詩火が一生懸命になって編んだもの。
 ふたりで一緒に巻く事も考えて、出来るだけ長いものを編んだので、一緒に身体を温まる事が出来るはずだ。
「詩火さん、メリークリスマス」
 感謝の気持ちを述べながら、智明が彼女から貰ったマフラーを首に巻く。
 ……それ以上の言葉はいらない。
 彼女にはそれだけで、気持ちが伝わるのだから……。
「……メリークリスマス……」
 幸せそうな表情を浮かべ、詩火が自分の首にマフラーを巻く。
 智明が寄り添ってくれているおかげで、身体がほんのりと暖かく、マフラーを通じて、彼の優しさが伝わってきそうである。
「このような私ですが、来年もよろしくお願いしますね」
 彼女の顔を眺めながら、智明がボソリと呟いた。
 例え愛するものであっても、素顔を曝す事は出来ないが、それでも彼女は不満ひとつ言わずに接してくれている。
 だからこそ……、一緒に居たい。
 来年も変わらぬ気持ちのまま……。
「……こちらこそ来年もよろしくね……」  彼の気持ちに応えるようにして、詩火も迷う事なく答えを返す。
 彼女にとって智明はす大切な存在……。
 ほとんど会話をしなくても、彼なら理解をしてくれる。
 智明から告白してくれた事も嬉しかった。
 ……ふたりだけのクリスマス。
 隣に愛する人さえいれば、それだけで幸せな気持ちになれた。




イラストレーター名:一二戻