刈谷・紫郎 & 久峩・亜弥音

●幾億の星空の下、2人だけの時間

 クリスマスの夜。
 ふたりは銀誓館学園の園内にある温室の中にした。
 温室の天井はドーム型になっており、色とりどりの緑に満たされ、その中央には色鮮やかな深紅の薔薇がアーチ状に作られており、何やらコメントの書かれた小さなプレートが括りつけられている。
「……好きよ、紫郎。ずっと傍にいてね。いてくれないと、すぐ駄目になっちゃうから」
 甘えるようにして紫郎に寄り添い、亜弥音が幸せそうな表情を浮かべた。
 お互いにとって、初めてのキス……。
 柔らかいランプの光に照らされたヤドリギに見守られ、ふたりは愛を確かめ合った。
 唇を通して伝わるお互いの気持ち。
 ふたりがキスをしている時間はそれほど長くなかったが、それだけでもお互いの気持ちを感じる事が出来た。
 キスをした事によって、ふたりの絆がさらに強まり、お互いの気持ちが、ひとつになったような錯覚を受ける。
 それだけ、ふたりにとっては、忘れる事の出来ないキスとなった。
「ああっ、ずっと一緒だ」
 照れくさそうな表情を浮かべ、紫郎がはっきりと答えを返す。
「あっ、そういえば……」
 ハッとした表情を浮かべ、紫郎が何かを思い出した様子で懐を漁る。
 それは紫郎が彼女にプレゼントするために買っておいた櫛だった。
 この櫛は使い方次第で櫛にも髪留めにもなるので、きっと彼女も喜んでくれるはずである。
「ちょっと、いいか?」
 彼女の身体をしっかりと抱き寄せ、紫郎が彼女の髪に櫛を挿す。
 紫郎が予想した通り、彼女にピタリだった。
 まるで彼女に合わせて、櫛が作られたかのように……。
「……愛しているよ、亜弥音」
 そして、紫郎はもう一度、亜弥音に誓いのキスをする。
 それは寒い冬空を熱く蕩かすように熱く、夜空に美しく輝く幾億の星よりも煌びやかで、世界の時計の針がその瞬間全て止まり、今すぐ世界が滅んでも後悔しないほど素敵なキスだった。




イラストレーター名:瀬田茉莉果