●寒くてもあったか
今まで一度もクレープを食べた事がない風月のため、ピジョンが『ならば一緒に食べに行きましょう♪』と街に誘う。
その間も風月は興味津々な様子で、『クレープ……、温かいのに甘いの?』と語りかけ、ピジョンから答えを聞くたび、瞳をランランと輝かせ、少しずつ期待を膨らませていった。
風月はいつも盟友とベッタリなので、ふたりで一緒に出かける事は滅多になく、とても珍しい事なのだが、既にクレープの事しか考える事が出来なくなっているため、他の事が頭に入らないようである。
そんな風月を横目で見ながら、ピジョンが『折角のクリスマスだし、丁度昼間は時間が空いていたので、この機会に沢山可愛がってやろう』と考えた。
しかし、風月はその事にまったく気づいておらず、クレープの屋台で店員がクレープを作っている間も、はじめて見る食べ物に瞳を輝かせ、『うわー……! うわー……!』と声を漏らしている。
「よほど楽しみにしているようですわね。そこまで喜んでもらえたのなら、ここまでつれてきた甲斐がありますわ」
苦笑いを浮かべながら、ピジョンが屋台の店員にお金を払う。
屋台の店員はそれを素早く受け取り、ポケットの中を漁って小銭を取り出し、念のため枚数を確認してから、ピジョンにおつりを渡す。
「それじゃ、公園のベンチで食べましょう」
両手に持ったクレープの片方を彼女に手渡し、ピジョンが公園を目指して歩き出す。
風月は受け取ったクレープを大切そうに持ちながら、逸る気持ちを抑えてピジョンの横に並ぶ。
その途端に空からポツポツと雪が降り始め、次第に辺りを真っ白に染めていく。
「今夜はホワイトクリスマス、ですわね♪」
ゆっくりと空を見上げながら、ピジョンがニコリと微笑んだ。
そうしているうちに、目的の公園が見えてきたため、ふたりで近くにあったベンチに座る。
「まさか、こんなに美味しいものがあったなんて……」
クレープの包みを開けて一口パクつき、風月が信じられない様子で口を開く。
彼女の口元にはベッタリとクリームがついているが、その事も忘れて夢中になって食べている。
ピジョンはそんな風月を『可愛い』と思いながら、優しい姉のような目で、微笑ましく見つめるのであった。
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