翡翠・孔臥 & 皇・なのは

●Shall We Dance

 フロアへ足を踏み入れると、視界いっぱいに飛び込んできたのはクリスマスツリーだった。圧倒されるような大きさのツリーが吹き抜けを貫き、そびえ立っている。
(「さて、皇を捜すとしようか」)
 孔臥は入り口から数歩進んだところで立ち止まり一瞥すると、すぐにツリーから視線を外し首を回らせる。
「あ、孔臥君。ようこそいらっしゃいました〜」
 先に相手を見つけたのがなのはだったのは、孔臥が入り口から入ってきたからだろう。皇家のクリスマスパーティーなのだから、なのはが先に会場にいるのは当然だ。先に会場入りしていれば入り口に目を向けているだけで相手を見つけられるのだから、先に見つけられたのも仕方がない。
「今日の私の立場は、客なのかバイト執事なのか、どちらかね?」
「もちろんお客様ですよ。存分に楽しんでいってくださいね」
 つかつかと近寄って開口一番、孔臥の口から発せられた質問になのはは笑顔で答える。
「了解したよ。存分に楽しませてもらうよ。それにしても、珍しく大胆なドレスだね」
 孔臥も笑顔で応じつつ、よく似合っているよと続けて口の端に登らせた。お世辞でもなく桜色のドレスはなのはによく似合っていて、孔臥のタキシードもピシッと決まっている。場に沿う格好だ。
「にはは、ありがとうございます。でも、なんだか照れちゃうね」
 微かに頬を染め照れたように笑うなのはがチラリと横を向くと、丁度曲の変わり目であったらしい。会場に流れていた音楽が止んだ。もちろんすぐに次の曲が始まるのだろうが、頃合いと見たのか疲れたのか、ダンスを踊っていた一組の男女がフロア中央から歩み去って行く。
「さて、皇は踊れるか?」
「にふふ、当然です」
 そんな様子を視界に収め、孔臥はなのはへと尋ねた。返事の言葉は何処か得意そうな笑顔と共に。
「踊れるなら、私の相手をお願いできないだろうか?」
 続く言葉はダンスへの誘い。一組分のスペースが空いて、音楽もまだ再開されていない。確かに踊るには丁度良いタイミングだろう。
「では、よろしくお願いいたしますね」
 自分に差し出された手を取ると、なのはは空いたばかりのスペースへと歩み始める。
「準備は良いか?」
 周囲の様子から、そろそろ始まるなと孔臥は言葉を続けた。
「大丈夫です」
 返事が返りワンテンポ置いて、音楽が流れはじめる。周囲の男女も二人も踊るのはクラシックダンス。ステップを踏む足運びは軽やかに。孔臥の左耳につけたイヤリングが揺れ、なのはが頭に頂いた小さなティアラはシャンデリアの光を受けて輝く。むろんこれはまだ始まりでしかない。二人のダンスもクリスマスパーティーもまだ始まったばかりなのだから。




イラストレーター名:一二戻