サーリア・マニョール & ノア・リーヴ

●凍え死んだら君のせいだからね!

 雪が降り積もるクリスマスイブの日。
 サーリがノアに背負われ、引きずられるようにして街中までやってきた。
 その間、サーリはまるで呪文の如く『寒い、寒い』と愚痴をこぼし、ノアが呆れた様子でツッコミを入れている。
 サーリはアラビア生まれなので、とことん寒さに弱く、やり過ぎと思えるくらい、何枚も厚着をした上に、マフラーを何重にも巻き、イヤーマフや手袋をつけていても、寒さから逃れる事が出来なかった。
 クリスマスイルミネーションの灯りが花畑に見える。
 電動で動くサンタクロースは、三途の川の向こうで手招きする誰か。
 沢山の天使に連れられ、天に昇る寸前で、サーリがハッとした表情を浮かべる。
「ちょっと待ってて」
 そう言ってサーリが入っていったのは、宝石店。
 しばらくして、サーリが指輪ケースを手に戻ってきた。
「世界で一番大切なきみへ」
 ニコニコしながら、サーリがノアに視線を送る。
 しかし、ノアは呆れ顔。
「これをきみにあげる。そのかわり……君のこの先の人生、全て僕にくれないか」
 ゆっくりとケースを開け、サーリがノアの左薬指に指輪をはめた。
「……凝った演出で武器をありがとうございます、ご主人様」
 それでも、ノアはまったく信じておらず、営業スマイルで軽く流そうとする。
 サーリは多弁で歯の浮く事もすらすら言える。
 そのため、ノアにはどこまで本当のことなのか分からない。
「ちゃんと聞いて、ノア君」
 サーリはそれを逃さず、真剣な表情を浮かべ、
「これから先、何があっても一緒に居たい。絶対に君を泣かせない。絶対に君の手を離さない」
 と言い放つ。
「なんですか改まって。用が済んだなら帰りましょう?」
 ……疑いの眼差し。
 やはりノアはサーリの言葉を信用していない。
「……本気で婚約指輪を渡してるんだけど、それは拒否かな?」
 ノアが俯いて固まる。
「本気だよ?」
 指輪ごとノアの手を握り、サーリが力強く断言した。
 しばらくして……、ノアが顔を上げる。
 その表情を見てサーリは目を丸くしたが、それ自体が答えであると理解し、優しくノアの頭を撫でた。
「受け取って?」
 サーリがノアに囁きかける。
「………はい」
 その言葉に迷いは無かった。




イラストレーター名:ケロ澤