小鳥遊・瑠蘭 & ルルティア・タカナシ

●きみのいままでと、そしてこれからを

 ……クリスマスの数日前。
 ルルは兄に呼び出され、川沿いの橋の下にある瑠蘭の家にやってきた。
 家といっても俗に言うダンボールハウスの類で、まともな暖房道具がひとつも存在していない。
 そのせいでルルの体温が一気に奪われ、死ぬほど寒い思いをしたが、瑠蘭は軽く笑って
「……大丈夫。すぐ慣れるさ。意外とダンボールは暖かいからね」
 と答え、弟と同じ名を冠するシャーマンズゴーストに火を噴かせて焚き火で暖をとり始めた。
(「……お兄さま、ごめんなさい。やっぱり、僕は寒いです」)
 そんな事を考えながら、ルルがぬくもりを求めるようにして瑠蘭の横に座る。
 瑠蘭の身体はとても温かく、あっという間に寒気が消えた。
「……十年か」
 改めて確認するようにして、瑠蘭がゆっくりと口を開く。
 十年も行方不明だった兄との溝は、この2年間で少しずつ埋まってきたような気がしている。
 もちろん、完全に溝が埋まったというわけではないため、何処か会話がぎこちなくなっているが、少しずつ兄弟らしい会話が出来るようになってきた。
 それに反して口から出る言葉は、他愛のない話や、深刻な話……。
 本当ならば話したいことがたくさんあったはずなのに、それを上手く紡ぎだす事が出来ない。
 そのもどかしさのせいで、何を言うべきか忘れてしまい、気まずい沈黙がふたりの身体を包み込む。
「……おいで」
 その言葉と共に瑠蘭がルルの額に優しく口付けし、
「君の今までと、そして此れからを。私はいつでも見守っているよ」
 と温かい言葉を送る。
 普段のルルならば『何をするのか』と慌てて怒鳴って弾き飛ばしているところだが、その口から漏れたのは、
「……お兄さま、有り難う……」
 と言う言葉。
 自分でもどうしてそんな事を言ったのか驚いていたが、瑠蘭はすべてを察した様子で『大丈夫。気にしなくていいから』と優しい言葉を送る。
 そのため、ルルは少しだけ潤んだ涙を隠し、瑠蘭に甘えるようにして身体をすり寄せた……。




イラストレーター名:ケロ澤