●たまには恋仲らしく Vol.01 〜初・X’mas〜
「……美味しい」
スープを一口飲んだカイルの唇から、自然な感想がぽつりとこぼれる。
「よかった」
向かい合って食卓につく荒十朗が、男らしく引き締まった口許を微笑にほころばせた。
テーブルに並ぶのは、スープとサラダ、それから大皿に盛られたパスタ。
彩りよく美味しそうではあるが、目を見張るほど豪華、とは言えない、ささやかなクリスマスディナーだ。しかし、湯気を立てる作りたての手料理たちは、見ているだけでも充分すぎるほど心を温かくしてくれる。
大切な人が来ているというだけで、見慣れた自分の部屋がいつもと全く違って感じられるのは何故なのだろう。そんなことを思いながら、カイルは熱いスープをもう一口味わった。
「こっちも、冷めないうちに食べてくれ」
荒十朗が大皿から取り分けたクリームソースのパスタも、もちろん、とても美味しかった。
静かで、満ち足りた晩餐を終え、荒十朗とカイルは食器を片付けようと一緒に席から立ちあがる。
その時ふと、あるものが荒十朗の視界に入った。
棚に飾られた写真立て。
中に入った写真には、荒十朗の知らない大人の男といっしょに、1人の少女が写っている。銀の髪に金色の瞳の少女は、今よりも幼いが間違いなくカイルだ。
「あの写真は?」
「あれか。日本に来る前のものだ」
目の前のカイルと、写真の中のカイルには、年齢だけでなく違っている点があった。髪だ。
昔のカイルは、長い髪をポニーテールにしている。しかし今は左の一部だけ伸ばして編んでいて、あとは短い。
「髪。伸ばしていたんだな」
「ああ。戦闘中に、不注意でな。ばっさり切られてしまったんだ」
淡々と答えた彼女の髪に、荒十朗は手を伸ばした。
「勿体無いな……綺麗な髪なのに」
短い髪をさらりと撫でた後、三編みを手に取り、そっと口許に引き寄せる。
「何でお前は……髪に……とか平然とするんだ」
照れと、戸惑いの混じった表情で、カイルは俯いた。落ち着いた印象のある彼女には、珍しい顔だ。
「なんだ、唇にした方が良かったか?」
朱の差す頬を見下ろしながら、荒十朗がからかうと、カイルは弾かれたように顔を上げた。
「そんなわけ、……ッ」
慌てて否定の言葉を紡ごうとした唇を、荒十朗は不意打ちのように奪う。
「機会があったら髪の長いカイルも見てみたいな」
真っ赤になって硬直したカイルに、荒十朗は囁いた。
その言葉に、カイルはただ小さく頷いた。荒十朗の腕に、身体を預けたまま。
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