白夜・赤 & 倉科・こころ

●小さな奇跡〜雪と光と温もりと〜

 雪はヒラヒラと舞い降りる。地上でも、そこより幾らか上の場所であっても。
「混んでるなあ」
「仕方ありませんよ、クリスマスですしー」
 エレベーターの中では景色は拝めないが、クリスマスと言うこともあってか屋内の展望台は恋人達にとって格好のデートスポットになっているようだった。何処かはしゃいだ様子のこころは、隣りあって立った赤の手を少しだけ強めに握っていた。同乗した他のカップルに影響されたのか、恋人として初めて過ごすクリスマスの気恥ずかしさを隠す為のものなのかはわからなかったが。
「……展望台でございます」
 やがて、エレベーターは目的地へと到着し、アナウンスに少し遅れて頑丈そうな扉が開かれる。眼下に広がったのは光り輝く街の縮図。
まるで宝石のような光の粒達が織り成す見事な夜景をバックに、展望台から漏れた光を受け雪の結晶が煌めきながら降りて行く。
「わあ……赤くん、綺麗ですよ!」
「うわ、すっごいな……!」
 一歩先に、リードするように展望台へと足を踏み入れたこころに続いて、エレベーターから出た赤も思わず目の前の光景に見入る。エレベーターの中、いつもと違う恋人の姿に何処かぎこちなかった赤だが、一時的とは言えそんな緊張すら吹き飛んでしまうほどに夜景は美しかった。

「(くしゅッ)」
 どれほど景色を眺めていただろう。隣から聞こえた小さなくしゃみの音に気づいた赤は我に返ると顔を上げた。ここに来るまでドキドキしながら眺めていた水色のパーティードレスは、肩が剥き出しのデザイン。いくら屋内とはいえ、少し寒かったのかも知れない。斜め後ろに立っていた赤はそっとこころの背後に回って、無言で後ろから腕を回す。
「聖夜に先輩が風邪ひいちゃうなんて、天が許しても俺が許しません。……なんて」
 冗談めかしながらも、恋人をぎゅっと抱きしめた赤の表情が真剣だったことは、視界の隅に入ってきた顔からこころにもわかっていた。
「あ……ええと、ありがとう、ございますー……」
 だからこそ、恥ずかしそうに顔を赤く染めながらもこころはそのまま……。
(「……すごく幸せです」)
 恋人の温もりを感じながら、心の中で小さく呟く。

(「思い出に残るロマンチックな一日にしてぇな……!」)
 道すがら秘めていた赤の希望が叶うかも。
(「今日はきっと素敵な思い出になりますよねっ」)
 誰に向けたでもない、こころの問に望んだ答えが現実という形で返ってくるかも。
「あったかいですねー」
 全ては、これから。まだ二人のデートは終わらないのだから。




イラストレーター名:あず