鳳・飛鳥 & 水城・雛姫

●*:.聖夜の祈り..:*

「わぁ、本当に雪が降ってきたよ!」
 はしゃぐ雛姫の声に飛鳥が空を見上げれば、白くヒラヒラと空に舞うものは確かに冬の風物詩。ツリーに積もる雪は清四郎の手配してくれた人工降雪機によるものだが、今目にしているものは違う。自然、いや空までもが二人に素敵なクリスマスプレゼントをくれたのだろう。
「……そうだな」
 クリスマスぐらいは。ポツリと胸中で反芻した言葉は雛姫の想い。クリスマスぐらいは、進路という名の分岐の存在を忘れても良いのかもしれない。せっかくのクリスマスなのだから素敵な思い出を。
「綺麗ね」
 自身の想いが天にも通じたようで雛姫は嬉しそうに微笑み、空を見上げている。
「行くか?」
「ぅん」
 微笑みを浮かべ、向けた言葉に頷く雛姫の顔はやはり笑顔で。
「じゃ、行こう」
 飛鳥も微笑んだままクリスマスツリーの下へ向かうように促す。雪を靴が踏みしめる音が二人分、ゆっくりとツリーへ近づいていった。

「あの……これっ……!」
 雛姫が鞄の中から一枚の封筒を取りだしたのは、二組の足音が止まってから。飛鳥もまたコートの懐へと手を伸ばし、取り出したカード入りの封筒を雛姫に向けて差し出す。
「ありがとう」
 と口に上らせることもなく。
「何時までも、一緒に居るから」
 カードの交換を終えた二人は目を閉じ互いの唇をそっと重ねる。刹那のようで永遠のような至福の時間、それが互いに渡したカードのお返しだった。
「ぁ」
 やがて唇は離れ、耳まで真っ赤に染めた雛姫を唐突に衝撃が襲う。背に回された腕、目の前には飛鳥の胸。
「何時までも、一緒に居るから」
 急に抱きしめられた驚きも消えて、雛姫はぎゅっと抱き返す。再度同じ言葉を繰り返す飛鳥の胸へと顔を埋めたまま。
(「大好きな飛鳥くんと……いつもお隣に居られます様……」)
 そして二人は願う。何時までも一緒に居られるように、いつも隣に居られるようにと。雪はまだ止む気配を見せず、祈る二人を包むようにヒラヒラと舞い降りる。まるで二人の世界を優しく包み込むように。




イラストレーター名:笹井サキ