白露・狭霧 & グローリア・シルバーマン

●喧騒を離れて…2人だけのひととき

 クリスマスパーティーの会場は、沢山の人々の笑い声に満ちていた。
 美味しそうな料理、祝いの言葉。
 美しいピアノの演奏も聞こえてくる。
 狭霧とグローリアも、はじめのうちは輪に加わり、料理をつまみながら皆と他愛のない会話を交わしていた。けれど、あまりの人数にちょっと人酔いしてきたのか、グローリアの表情には徐々に疲れの色が浮かんできていた。
「リアさん、疲れた?」
 それに気付いた狭霧は、気遣うようにグローリアの肩を抱くと、ゆるりと優しくテラスの方へと促した。
「少し、外の風にでもあたろうか?」
「ん、そうする……」
 誘われるまま、テラスへと歩を進めてゆけば、ひらりと舞い散る雪が見えた。
 外は少し寒いかな……?
 そんなことを考えながら、ゆっくりとテラスの扉を押し開ける。
 頬に触れる冬の空気は、とても冷たかったけれど、少し火照り気味の身体には丁度良いくらいに感じられた。

 はらはら、ふわり。
 粉雪が、グローリアの黒いイブニングドレスに舞い落ちる。
 ふたりは身を寄せ合ったままで、雪降る夜空へ視線を向けた。
 まっくらな空から、まるで星が近付いてくるかのように、白い雪が落ちてくる。
「リアさん……ありがとう」
 不意に紡がれた、狭霧の言葉。
 何が、なのかは彼は口にはしなかった。けれどその短い言葉には、様々な想いが込められていた。
 グローリアと出会えたこと、告白に応えてくれたこと、そして今、傍にいてくれること……。
 すべての想いを詰め込んで、狭霧がグローリアの赤い瞳を覗き込む。
 それに応じるかのように、グローリアもゆっくり彼の同じ色をした瞳を見つめた。
「ねえ、リアさん……」
「狭霧君、どうかした……?」
 暫し、言葉のないまま見つめ合う。

 どちらともなく……。
 緩やかに、唇が近付いてゆき……そして………。

「………」
 ほんのり光る雪灯りの中、ひとつに重なるシルエット。
 それは、付き合い始めてほんのひと月足らずの、初々しさが残る恋人達。
 お互いまだまだ知らないことだらけだし、ぎこちなさもまだ残る。
 けれど互いを大切に、誰よりも愛おしく思う気持ちだけは、どんな恋人にだって負けはしないから……。




イラストレーター名:笹井サキ