如月・海藍 & 松本・銀二

●聖なる夜の甘い時間

 雪の降り積もったクリスマスツリーの下で、海藍は銀二を待っていた。
 木製のベンチはちょっぴり冷たいけれど、もうすぐ会える彼のことを考えていれば、そんなことなど気にならない。
 彼が来たら、どこへ連れて行ってもらおう……。
 今日一日、どんな思い出を一緒に作ろう……。
 煌めくツリーの飾りを見上げ、のんびりそんなことを考えていると、遠くから、自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
「海藍さーんっ、お待たせーッス!」
 息を切らし駆けてきたのは、ライダースーツ姿の銀二。
「……だいぶ待たせてしまったッスか?」
 銀二は荒くなった息を整えながら、遅れたことを謝ると、ぺこりと深く頭を下げた。
「いいえ、そんなに待ってませんよ」
 その様子に、海藍は軽く首を振り、ふわり優しい微笑みを浮かべた。
「そうッスか……」
 けれど、待たせてしまったことには変わりないと、もう一度だけ詫びを言い、銀二はそっと海藍の両手をとった。
 長く外にいた所為か、彼女の細い指先は、芯まですっかり冷えきっていた。
 それを、銀二の大きな手のひらが包み込み、愛しむように温める。
 軽くこすり合わせれば、ゆっくりゆっくり伝わってくる、柔らかな熱と優しい想い。
「銀二さん、ありがとうございます」
「いや、礼を言われる事なんて、何も……」
 いつしかふたりは、手を強く握り合ったままで見つめ合っていた。

 そして、どれくらいそうしていただろう……。
 海藍の手はとっくに温まっていたが、ふたりはまだ手を握り合っていた。
 こうやってふたり並んで座っていると、それだけで不思議と暖かな気持ちになってくる。
 この機会に、何かしらの進展を……。
 奥手故、なかなか先へと進めないふたりだけれど、このクリスマスムードの中でなら、ほんの少しだけ大胆になれる気がした。
「海藍さん……」
「はい、銀二さん……」
 重なり合う手に、ほんの僅か力が加わり、ふたりの距離もほんの僅か近くなる。
 互いの呼吸が聞こえるほどに、近付けられた顔と顔。
 けれど、そこから先に進めない……。

 でも今日は、ほんの少し特別な日だから……。
 あとほんの少しの進展を、期待してみてもいいですか………?




イラストレーター名:衣谷了一