鴈月・玲珠 & 華山院・アドルフィーネ

●温もり

 夜は暗いものと決まっているが、この日の街は別だった。建物の窓からは温かそうな光が漏れ、壁やツリーをクリスマス特有の電飾や飾りが彩っていて。
「見ているだけで楽しくなってきますね」
   と、アドルフィーネに笑いかけ、玲珠は抱えていた紙製の買い物袋を抱え直す。
「あ、あれも買って行こ?」
 腕を組み隣を歩くアドルフィーネは空いたほうの手で、一件の店を指さし……。
「そうですね、まだ余裕もありますし」
 買い物袋を一瞥して玲珠もアドルフィーネの提案に同意した。去年までは良く意味もわからなかったクリスマスも、何となくわかってきたという玲珠は物珍しげに周囲を見回すと言うこともなく、ただアドルフィーネとクリスマスイブの街を歩いている。時期柄か街を歩く恋人達の姿も多く、買い物に来た人々の姿もあちこちに見受けられる。そんな街の景色の一部と化した二人は商店を巡り、足りないものを買い揃えて行った。
「食材と、クリスマス用品にプレゼント……」
「いっぱい買っちゃったね! 玲くんの作る夕食が楽しみ♪」
 抱える紙袋の他に追加された買い物袋へと目をやる玲珠を見上げ、アドルフィーネは笑顔を浮かべる。そう、二人はこの後夕飯を一緒に作って食べることになっていたのだ。
(「……作るときはアドルさんから絶対に目を離さないようにしませんと」)
 アドルフィーネの笑顔に微笑みを返しながら、玲珠は心の中で密かに呟く。買う物は買った、だからここからは帰路だ。雑談を続けながら、二人は賑やかな街を腕を組んだまま並んで歩く。これはこれで楽しいひととき。
「出会ってから一年も経つのかぁ……」
「あぁ……、時間が経つのは早いものですね。もう出会ってから一年、ですか」
 他愛のない雑談に混じったアドルフィーネの呟きに玲珠は目を細めた。
「あの時は遠い憧れの存在だった玲くんが、今はこんなに近くにいるなんて……びっくり」
「この一年いろいろありましたけど、今こうして一緒にいて笑い合っていられる幸せが続くと良いですね」
 アドルフィーネの腕の力が少しだけ強まったのを感じながら、足を止めて微笑む自身の言葉にアドルフィーネが頷く。
「出会えてよかった。こうやって一緒に夕飯を作ったり買い物行ったり……何気ない毎日がとっても楽しいよ。ありがとう、玲くん」
「こちらこそ、これからもよろしくお願いしますね」
 これからもよろしくねと続け、微笑みを添えた言葉に玲珠は再び笑顔で答え……二人は再度歩き出した。幸せと彩りに満ちた街を、帰路を。




イラストレーター名:兎月郁