●炬燵でLOVELYくりすます
クリスマスの夜。
ふたりは隣り合うようにして炬燵に座り、楽しく鍋を突付いていた。
鍋はグツグツと煮込まれ、美味しそうな匂いが辺りに漂っている。
「私が取り分けしましょうか? ……熱いので気を付けてくださいね?」
こだわりの具材を選びながら、雪葉がお椀によそっていく。
……どの具材も雪葉のオススメ。
矢代に差し出そうとした時、ふとした考えが脳裏を過ぎる。
「あーんして下さい、とかしましょうか?」
半ば冗談気味に、雪葉がボソリと呟いた。
こんな事を言われたら、きっと矢代が困るに違いない、と思いつつ……。
それに矢代がどういった反応をするのか見てみたかったので、彼がここでどんな態度を取るのか、少し楽しみなようである。
「えーと……うん。実はさっきも……」
苦笑いを浮かべながら、矢代が申し訳なさそうに答えを返す。
矢代から返って来た意外な言葉。
彼なりに言葉を選んでいたようだが、どうやら彼女と一緒の席になる前、別の席でも『食べさしの歓迎』を受けていた様子。
「……そうでしたかぁ……。なら、私のは別に要らないですね〜……」
俄かに寂しげな表情を浮かべ、雪葉がこだわりの具材が盛られたお椀を渡す。
矢代がお椀を受け取った後、今度は自分のお椀にも、こだわりの具材をよそい、何も言わずに黙々と食べ始める。
「冬にお炬燵でお鍋を囲めるなんて、あったか幸せですよね♪」
のほほんとした表情を浮かべ、矢代がニッコリと笑う。
……無反応。
「あれ?」
矢代がキョトンとした表情を浮かべる。
それでも、雪葉は何食わぬ顔で、鍋を食べ続けた。
「……まあ、またいつかこういう機会があったら、その時こそは……ということで♪」
お茶を淹れた湯呑みを矢代に差し出し、雪葉がにこやかな表情を浮かべる。
「ええ……。また、機会があったら、是非」
矢代が笑顔で、答えを返す。
そして、ふたりは暖かにクリスマスの日を共に過ごすのだった。
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