緒方・薔薇 & 森里・浩之

●祝1年目に...??

「ここなら静かに過ごす事が出来そうだね」
 雪がちらちらと降り中、浩之が高台から街を眺める。
 高台から見える夜景はとても美しく、普段とは違った街並みをふたりに見せてくれた。
「ああ、まったくだ。去年はちょっと騒がしかったからな」
 苦笑いを浮かべながら、薔薇が去年のクリスマスを思い出す。
 あれから一年経って、少し落ち着いたふたり。
 そろそろキスをしても、いい頃かも知れない。
「でも、ここなら誰の目を気にする必要も無い」
 浩之の言葉を聞いて、薔薇がビクッと身体を震わせた。
 一瞬、『心を読まれているのではないか』と不安に駆られてしまうほどのタイミング。
 そのせいで心臓がバクバクと高鳴っており、緊張がピークに達している。
「よくよく考えてみたら、こうやってふたりっきりになるのも久しぶりだな」
 『単なる気のせいか』と思いつつ、薔薇が再び夜景に視線を移す。
 夜景はとても美しく、思わず時間を忘れてしまう。
 空からポツポツと降ってきた雪は実に幻想的で、すべてを覆い隠すような勢いで、辺りを真っ白に染めていく。
「確かに、あんまり会う事が出来なかったからね」
 のんびりと夜景を眺めつつ、浩之が嬉しそうな表情を浮かべる。
 ふたりとも忙しい日が続いていたせいもあり、昔と比べて一緒に過ごす日が減っていた。
 だからと言って別に気持ちが冷めたわけではなく、以前よりもお互いが近く感じられ、例え離れていても相手を身近に感じる事が出来ている。
「だったら、今日は運がいい」
 少し顔を赤らめながら、薔薇が浩之に寄り添った。
 薔薇も今日が何の日なのか知っている。
 恋人達にとって今日が特別な日である事を……。
「……寒くないかい?」
 浩之が優しく肩を抱く。
 見詰め合う、ふたり……。
「少し寒い……。それに今日なら、別に……」
 薔薇の顔が赤くなる。
 身体がきゅっと強張った。
「ああ、分かっている」
 浩之の言葉が耳元に届く。
 そして、ふたりはキス寸前のところまで唇を近づけた。




イラストレーター名:悠貴