●静かな夜に、きみと。
(「クリスマスだから……、と理由をつけなきゃ、こういう機会に恵まれないのは、なかなか情けない事だな」)
そんな事を考えながら、稜牙が氷姫の横顔を眺める。
この日、稜牙は氷姫を自宅に招きいれた。
ふたりともよく互いの家に上がり込むほど、心の通じ合った仲。
一緒に準備した食事を平らげ、コーヒー片手にリラックス。
それから、ふたりは語り合った。
ほんの些細な事でも嬉しく感じられ、思わず時間を忘れしまうほどに……。
……気がつくと、すっかり夜が更けていた。
「今日は特別な日だから、ちょっと変わった趣向で、部屋の明かりでも消してみようか」
そう言って氷姫が部屋の明かりを消す。
途端に窓からの星明りが淡く入り込み、幻想的なムードが部屋の中を包み込む。
何気なく、外の景色を眺める、ふたり……。
そのせいか、何となくふたりとも、いい雰囲気に……。
(「本来、今日がどういう日かというのは知らないわけじゃないし、それはそれで尊重すべきだとは思うけれども……」)
稜牙がゴクリと唾を飲み込んだ。
わけもなく胸がドキドキする。
外が寒いせいなのか、いつもより御互いの体温を感じる事が出来る。
(「まあ……、この国ではこの日は楽しんだ者勝ちって事になっているわけだから、折角なので都合よく過ごさせてもらおうか」)
そう思って氷姫に視線を送る。
彼女もその視線に気づいたのか、稜牙を見つめて目を閉じた。
その間、氷姫はこれまでの事を思い出す。
もしかすると、ここまで相手の事を意識したのは、初めての事かも知れない。
……いつもより時間が長く感じられた。
稜牙もその気持ちに応えるようにして、そっと唇を重ね合わす。
そのため、稜牙は心の中で『来年の今頃もこうして二人で過ごせますように』と祈りつつ、そっと彼女の肩を抱き寄せた。
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