玖田・宗吾 & 支倉・タケル

●はなればなれのクリスマス

 わずかに時を遡り、宗吾の出立前。
「それじゃ、行ってくる。ちと、長くなるかもしれん」
 険しい表情を浮かべながら、宗吾がタケルに一時の別れを告げる。
 メガリスを巡る戦い『闇の武道大会』。
 宗吾の目的は、敵の組織への潜入……。
 ……やるべき事は決まっている。
 例え、傷つき倒れそうな事があっても、ひたすら剣を振り続け、障害となる敵を倒す事。
 それがどんなに困難な事なのか、宗吾も十分に理解しているが、いまさら引き下がるつもりはない。
「暫く会えなくなるんで、淋し……い、いや! な、なんでもないぞ!」
 どことなくしょんぼりとした表情を浮かべた後、タケルがそれを誤魔化すようにして激しく首を横に振る。
 本当は宗吾がいなくなる事に対して、寂しさを感じているのだが、その事を口に出すつもりはないようだ。
「ご、ごほん! き、気をつけて行ってこいよ。無事に帰ってくるのを待っているな」
 恥ずかしそうに頬を染め、タケルが軽く指を絡ませ、宗吾と約束をかわす。
「では、な」
 キリリッと真剣な表情を浮かべ、宗吾がゆっくりと背を向ける。
「それじゃあ、な……」
 タケルは宗吾の背中を見つめながら、消え去りそうな声で別れを告げた。
 そして、現在……。
 ……タケルは日本にいた。
 どうやら、宗吾は順調にやっているらしい。
 既に何人斬ったとか、そんな話が伝わっている。
 それでも、タケルは不安であった。
 ゆっくりと空を眺め、『早く無事に戻ってほしい』と祈る。
 一方、宗吾はドバイにいた。
 世界大会の最中、クリスマスの飾りを眺め……。
(「ふむ……、今年は共に過ごせなんだな」)
 宗吾はタケルに思いを馳せる。
 ……離れ離れのふたりのクリスマス。
 どんなに手を伸ばしても……、届く事はない。
 だが、逆に実感する事は出来る。
 お互いを想い合っている事を……。
 宗吾はタケルに贈られた武運を祈るリストバンドを……。
 タケルは宗吾に贈られた懐中時計を……。
 ……それぞれ見つめる情景。
 時間も、距離も越えて、届く想い……。
 タケルの携帯に宗吾からのメールが届いた。
 彼からメールが届く事自体、非常に珍しい事……。
『メリークリスマス』
 きわめて端的な文章だったが、彼女にはそれで十分だった。




イラストレーター名:煌