●愛しい時間、暖かな時間
部屋の中に、美味しそうな香りが漂ってきた。
今日はクリスマス。
もちろん、この部屋もクリスマスの飾りでいっぱいだ。
姫菊と久遠の二人が作る料理も、クリスマス料理。
美味しい香りの正体はそれであった。
料理も完成し、さっそくテーブルへ。
色とりどりのご馳走が、次々と運ばれていく。
その片隅には、小さなクリスマスのマスコットも並べて。
「これ、こっちで良いかな?」
姫菊は、料理を並べながら、久遠に確認を取る。
「ああ、そこに……」
頷こうとして、久遠は言葉を止めた。
「妙に偏らせて配置してないか?」
一人が座る場所に、何故か偏っている……気がする。
「そう?」
気にもしない素振りで、姫菊はそのまま料理を置いていく。
久遠はしばらく、偏って置かれた料理を、直すか直さずに置くべきか悩んでいた。
そして、全ての料理がテーブルに並べられる。
結局、姫菊の置いた料理はそのままだ。
疑問は残るものの、料理に近い席に久遠が座る。もし、姫菊が取れないというのであれば、久遠が代わりに取ってやろうと思っていた。
「失礼しまーす」
久遠が座ったのを見計らって、姫菊も座った。
久遠の膝の上に。
その姫菊の行動に不意を突かれたような表情を浮かべる久遠。
そうか、と久遠は気づいた。
姫菊が料理を偏らせて置いた理由。それは、こうして座るためのものであったのだ。
と、姫菊は嬉しそうに、そして少し照れたように告げる。
「一緒に過ごす2度目のクリスマス。ありがとうね」
その言葉に笑みを浮かべて、久遠は首を横に振った。
「俺の台詞を全部言わないでくれ」
そういって、片手で姫菊を引き寄せる。
「今、此の腕の中に姫菊がいてくれて良かった」
久遠の言葉に、姫菊は頬を染めながら、嬉しそうに微笑んだ。
久遠の膝の上に乗ったまま、姫菊はそっとグラスを手に取った。
姫菊が倒れないよう、片手で支えながら、久遠もグラスを手に取る。
顔を見合わせ、一緒に微笑んで。
「「乾杯!」」
暖かい部屋の中で、二つのグラスが重なる良い音が響いた。
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