高瀬・洋恵 & 工藤・一弥

●Will you stay by me

 静かな夜。
 響くのは、自分の足音だけ。
 遠くにきらきらと輝くイルミネーションが見える。
「綺麗ね」
 そういって、洋恵は隣を見た。
「あ……」
 そこにいて欲しいあの人は、隣にはいない。
 遠い地に彼はいるのだから。
 洋恵は暖かなショールを抱きしめるかのように、空を見上げた。
(「今、ここにいなくとも」)
 彼女は思う。見上げる空は、彼の元に繋がっているのだと。
 絶え間なく降り続く雪。
 深い藍色の空からいくつもいくつも降り注ぐ。
 瞳を閉じて、洋恵は静かに願う。
(「今は傍にいなくとも必ず彼は帰ってきてくれる。彼は必ず約束を守ってくれるから」)
 冷たいはずの雪が、暖かく優しい気がしたのは、気のせいだろうか?
 彼女の指には、きらりと指輪が輝いた。

 静まり返る道を歩いていく。
 一弥は、空から舞い降りてきた白い何かに足を止めた。
「……雪?」
 思わず空を見上げる。
 そこには、深い藍色の空が星を隠していた。
 かわりに降らすのは、白い綿のような雪。
 その一つを手に取り、消えてゆく様を眺める。
「洋恵さん……」
 思わず愛しい人の名を呟いて、苦笑を浮かべた。
 隣にいないその、愛しい人。
 けれど、側にいる。そんな気さえするのだ。
「さて、行くか」
 一弥はもう一度、空を見上げて、そして駆け出した。

 どのくらいの時間が経ったのだろう。
 洋恵はまだ空を見上げていた。
 彼が今、どこにいるのかさえも、知らされていない。
 不安がないといえば嘘になるだろう。
 でも、彼女には大切なショールと指輪があった。
 彼からもらった大切なものが。
「一弥……」
 洋恵は、隣にいない彼の名を、そっと空へと呟いた。




イラストレーター名:和花