鷹峰・零 & 無霧・燈艶

●エスコート役はまだまだ場数不足

 真剣勝負の結果、負けた零は約束の通り、燈艶にご飯をご馳走することになった。
 折角だからとクリスマスにあわせて、蟹クリームコロッケの美味しいお店に誘った零だが、慣れない状況と高級な店に少し緊張中だった。
 零と違い、フォーマルな場に慣れている燈艶は落ち着いている。……でも零が緊張しているのは、財布の中身や店の雰囲気や慣れないタキシードを着ていることだけが原因ではない。勝負の後に抱きしめられ、頬にキスをされた事が、さらに拍車をかけているのだ。
(「健闘を称えて、という物だとは思うのですが、やはり意識してしまいますね」)
 とはいえ、零が抱いているのは恋愛感情とはちょっと違う。憧れ、尊敬、純粋に素敵な人だなと思う気持ち……それらが入り混じった好意なのだ。だが、胸元が開いたイブニングドレス姿は、あまりにも魅力的だ。
「今日は本当にありがとうございます。お陰で素敵なクリスマスになりそうですよ」
 緊張した零の様子を楽しむように、燈艶は優雅に笑みを浮かべる。
「いえ、誘っていただいて、こちらこそ感謝しますわ」
 軽くお辞儀をする燈艶、その途端、ドレスの胸元から谷間が見えそうになって、慌ててそっぽを向く零。そんな彼の反応を見て、燈艶は楽しそうに笑う。

「んー、美味しいですねえ」
 テーブルの上のクリスマスキャンドルが少し短くなった頃には、最初はぎこちなかった零も少しずつ慣れたのか、段々と自然に振る舞えるようになっていた。
 楽しく会話していると、時間はあっという間に過ぎていく。食事もそろそろ終わりかという頃、零は勇気を振り絞って燈艶に聞く。
「また、お誘いしていいですか?」
 かなり緊張しながらも、そう見えないように頑張って自然に振る舞おうとする零。それをずっと微笑ましそうに見守っていた燈艶は、優しい笑顔を浮かべる。
「今日よりも、さらに楽しい時間にしてくださるなら」
 悪戯っぽく微笑む燈艶の言葉に、零が嬉しそうに、照れくさそうに笑った。




イラストレーター名:龍