●亡き友のための
今にも雪が降り出しそうな曇り空。
ジェラールは栗栖の墓参りに来ていた。
きちんと墓のまわりを掃除した後、自ら育てた花の花束を墓碑の前に供えて、しばしの祈り……。
(「久しぶりだな、クリス。お前がいなくなって、もう一年半も経つ。お前が遺した寮にも、お前を知らない寮生の方が多くなってしまった。……大丈夫だ。皆、元気でやっているよ」)
まっすぐ墓碑を眺めたまま、ジェラールが亡き人に近況を伝える。
……この一年半。
軽く思い出しただけでも色々あった。
そのすべてを語りつくすためには、かなりの時間を必要とするが、栗栖なら黙って聞いていてくれそうである。
沢山の仲間達と過ごした日々。
楽しい事もあれば、辛い事もあった。
(「お前がいなければ、これほど深く他人を想うことはなかった。お前を失わなければ、強くなろうと思うことも……。庭師という、何かを生み出す職を目指すこともなかった。良くも悪くも全て、お前なくして今の俺はいない……」)
ジェラールにとって栗栖の死は、忘れる事の出来ない出来事。
例えるなら、自分の半身を失ってしまったような感覚。
彼が弱い人間であったのなら、心の中にポッカリと開いた闇の中に飲みこまれ、立ち直る事が出来なかっただろう。
それでも立ち直る事が出来たのは、やらなければならなかった事があったから……。
(「お前はもう、この世にいない。今さら、お前のためにしてやれることなんて何もない。だが、生涯をかけて、お前の遺した庭を護ると決めた。お前のいる天国には行けそうもないが、心だけはずっと傍にいよう」)
それがジェラールの果たすべき役目……。
(「お前の心が、安らかであるよう祈っているよ。だから、できれば、見守っていてほしい。お前の愛した庭に咲く花を、そして集った皆を……」)
ふと空を見上げると、在りし日の栗栖の面影が浮かんでいた。
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