●あたりまえのような、特別の夜
クリスマスの夜、了とシャーマンズゴーストのジン太の姿は、いつものように二人が暮らすアパートの一室にあった。
地味な内装と、必要最低限の家具だけを揃えた小さな部屋。少し寂しさすら感じさせるかのような空間だけれど……でも、今日は少しだけ違う。
部屋の真ん中にあるコタツの上には、今だけデコレーションケーキが用意されていた。
2人用の小さなサイズだけど、上には『メリークリスマス』と書かれたチョコレートのプレートと、それから、サンタクロースそっくりな姿をした、シャーマンズゴーストのマジパンが1つ。
「…………」
「…………」
ケーキを挟んで座る了とジン太。
いつものように無口で静かで、クリスマスだろうと何も変わらない了の前で、ジン太は紙とモールで出来た三角帽子を被った。
ほらほら、と了に見せるように、手にしたのはクラッカー。
しっかり持って、下から伸びた紐を器用につまんで……静かな部屋の中に、パン! と軽やかな音が響くのと共に、色とりどりのテープや紙吹雪が飛び散る。
どちらも、何も喋らない。
了が静かにケーキを切って、四分の1くらいずつ皿に取り分ければ、微かに響くフォークの音。
甘いクリーム、半分に割ったチョコプレート、勿体なくて食べれないシャーマンズゴーストサンタ。
ジン太はケーキを食べる合間に、ときどき袋の中から新しいクラッカーを取り出すと、それを景気良く『パン!』と鳴らす。
部屋の中には火薬のにおいが広がって。
床やコタツや、しまいには皿の上まで紙吹雪が飛び散って……。
いつものように、ただ静かに過ごすだけだけど。
でも、今日は、クリスマスだから。
ジン太は帽子を被ってクラッカーを鳴らし、了は残りのケーキを半分に切って互いの皿に載せて。
それから……。
「……メリー、クリスマス」
それは、外の喧騒にかき消されてしまいそうなくらい、ぽつりと小さな呟きだったけど。
ジン太はどこか嬉しそうな仕草で、がさごそと最後のクラッカーを握った。
パン!
……あとは静寂に覆われて。
いつもと同じようで、ちょっとだけ違う、特別な夜が静かに過ぎていくだけ。
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