メイベル・ウェルズ & リーゼロッテ・ルーデンドルフ

●幻想舞踏 〜Cinderella Time〜

 普段なら、行動力のあるメイベルが、戸惑うリーゼロッテを引っ張っていく。
 それが当たり前で、それがふたりの関係。
 だけれども、今宵は……。

 事の発端はリーゼロッテの一言から始まった。
「舞踏会に出るなら、どちらかが男装というのも楽しいかしら」
「男役は背の高いリゼの方かと思うが?」
 それに何の疑問もなく、メイベルもこの時はからかい半分で受け答えをしていたが、この言葉の後からリーゼロッテのターンが始まった。
「ふふ、わたくし、男装でも構いませんわよ? どうせならメイベルも、普段とは違うお洒落をしてみません?」
 ふふふ。と、リーゼロッテが妖しい笑みを浮べた。
 その後はリーゼロッテに乗せられるままに、普段は黒のゴスロリばかりのメイベルが、姫ロリドレスを着ていく。
「お、可笑しくないか…?」
 着慣れないそれに、恥ずかしそうにリーゼロッテに上目遣いで尋ねる始末。
「可笑しくなんて。とても良くお似合いですよ、姫君」
 びしっと燕尾服で男装を決めたリーゼロッテが微笑み、メイベルに返すと、メイベルはその言葉とリーゼロッテの微笑みに一瞬で、頬を朱に染めた。
 これで勝負あり。
 後はリーゼロッテのなすがまま。

「さあ姫君、お手をどうぞ?」
「ありがとう、王子様。喜んで」
 リーゼロッテが微笑み、メイベルへとそっと手を差し出す。メイベルはその手に自分の手をおずおずと手をのせ、半ば夢見心地で言葉を返す。
 そんなメイベルを余裕の笑みをで受け止めたリーゼロッテは、そのままメイベルの手をとり、ダンスフロアまで優雅にエスコートしていく。
 流れる音楽に合わせて踊り出す二人。
 もちろんダンスでも確りとリードをするリーゼロッテ。
 それに対してメイベルは、うれしさと照れくささで緊張して、リーゼロッテにリードされっぱなし。
 それよりも何よりも、リーゼロッテの男装に見惚れて、頬は赤く染まったまま。
「ある意味、我の理想の男性像かも……」
 思わずメイベルの心の中の言葉が口から出てしまった。
 それは囁きほど小さかったけど、リーゼロッテの耳には確りと届いたのだが、彼女は照れる事も慌てる事も、取り乱す事もなく、柔らかくメイベルに微笑みを向ける。
 そうして少し身を屈め、メイベルの耳元で囁いた。

「光栄です、私の可愛い姫君」




イラストレーター名:Hisasi