市之瀬・連 & 湊華・力

●Merry X'mas!! 〜爆笑サンタにトナカイのオシオキ〜

「連、まだ着替え終わらないの?」
 コンコンコン、と力は男子更衣室のドアをノックした。

 パーティに参加する為に、連と分かれて女子更衣室に入って、着替えたのはサンタガールのコスチューム。でも、廊下に出てしばらく待っても、連はなかなか更衣室から出てこない。
 どうしたのかしら?
 心配になって力がノックすれば、中からは連の、うわずった声が返ってくる。
「り、力っ!? ちょ、ちょっと待……」
「? 開けるわよ」
 幸か不幸か、この更衣室は一番外れに位置している。ふたりの他に利用者はいない。だから力は躊躇無くノブに手を伸ばした。
 ガチャリ。
「遅いわよ、つら……ね……?」
 更衣室の中を見て、力の目は点になった。
 だってそこには、なんとも言いがたいシュールなトナカイ姿の連がいたから。
「ぷ」
 押さえる間も無く飛び出す笑い。
 力はすぐさま、お腹を抱えて大爆笑する。
「あははははっ! つ、連、何、その格好っ?」
「っせーな……だから出てきたくなかったんだよ」
 目に涙まで溜めて大笑いする力の様子に、連は握った拳を震わせる。
 分かってる、分かってたんだ。こんな風に大笑いされるだろうって事は……!
「こ、これは傑作だわ……!」
「……いい加減笑いすぎだろ」
 ぷくくくく、と人を指差す力の姿に連は憮然とした顔で言う。
「だ、だってー」
「……あったまきた。人の事笑うサンタにはちとオシオキが必要だなー」
 それでも、なお笑い続ける力の様子に、何かがプチンと切れるような音がして……じりじりと連は力の方へにじり寄る。
「えっ、えっ?」
 その雰囲気を察して、力の顔から笑みが消える。思わず少し後退した所で、壁にぶつかって。
「ちょ、ちょっと連。顔が怖いわよ」
「さーて、なんでだろうなー」
 邪悪さすら感じる笑みを浮かべて、力を追い詰めた連は、彼女の脇にあるドアへ手を伸ばして鍵をロックする。そして、その鍵は素早く連の背中。もう、力の手は届かない。
 逃げられない。
「ぇ、え……?」
「もう謝っても許さねーから、覚悟しろよ?」
 汗を浮かべて逃げようとする力の体を、連が後ろから抱きしめる。
 耳元で、囁いて、そのまま……。
「そんな、ぁん……」
 耳を甘噛みされる感触に、思わず力の唇から声が零れた。
 伸ばされた指先に……髪が跳ねる。
 もう、どこにも逃げ場は無い。
 だってここは人気の無い更衣室。今頃みんなはパーティ会場で……鍵、かけられて、それで……。

 いつの間にか着ぐるみを脱ぎ捨てた連が、力に触れる。
 囁いて、吐息が触れる。
 互いの熱が、絡み合う……力はただ、彼にされるがまま。

 ふたりのクリスマスは、誰も知らない密室の中で過ぎていく……。




イラストレーター名:Hisasi