水鏡・有希 & 緋勇・祈月

●最後のクリスマス

「何だか、あっという間だったな」
 今までの出来事を思い出し、有希がクリスマスツリーを眺める。
 ……銀誓館学園の生徒として、最後に過ごすクリスマス。
 そう思うと感慨深い。
「でも、充実していたんじゃないのか、俺達の学生生活……」
 真っ白な息を吐きながら、祈月がマフラーを首に巻く。
 空からはポツポツと雪が降っており、辺りを覆いつくしている。
「……確かにな。普通の学生じゃ、ゴースト退治なんてしないだろうし」
 苦笑いを浮かべながら、有希がゴーストとの戦いを思い出す。
 ……普通とは違う学生生活。
 普通の学生ならば、経験しないような日々……。
 目を閉じれば、その時の記憶が蘇っていく。
 能力が覚醒した事によって、日常からの離脱。
 今まで見慣れていた世界が、ゴーストの存在を知った事で、まったく異質な世界に迷う込んでしまったような錯覚を受けた。
「ああ、驚きの連続だったものな」
 宝石のように輝くイルミネーションを眺め、祈月が有希に寄り添ってクスリと笑う。
「そんな学園ともお別れか」
 有希がしみじみとした表情を浮かべる。
 銀誓館学園を卒業した後、 有希は国際言語コミュニケーション学科に入学。
 祈月は地方都市の神道学科へ入学し、夜間は調理の専門校の二足草鞋。
 現時点でその通りになるのか分からないが、どちらにしても別の道を歩む事になる。
「ちょっと……、寂しくなるな」
 祈月が深い溜息を漏らす。
 銀誓館学園を卒業したら、今までのようには会えなくなる。
 そう考えただけで、胸がきゅうっと締め付けられた。
「今まで、何度か行き先が分かれたことはあるが……、不安がない訳ではない。だから、約束をしよう。これからも、ずっと……。今までのように相棒で、今までと違って、共に在る者として」
 握手するようにして彼女の手を引き寄せ、有希が優しく抱きしめてキスをする。
 その途端、祈月の顔がぽおっと赤くなり、『……約束だぞ』と答えを返した。




イラストレーター名:奈木チヒロ