七条・紫門 & 武田・由美

●Silent naight


「しもーん。踊るのは感じたままに動けばいいのさー、考えて動くのはナンセンスさー」
 ダンスパーティーの会場と化した広い特別教室で踊る由美の姿。

「あ、見るのは帰ってから……ね!」
 クリスマスカードを押さえる由美の姿。

(「由美と一緒のクリスマスも2年目か。あっという間だったな……。すげえ楽しかった」)
   紫門は通りかかった店のガラス窓に映る由美の姿へ何気なく目をやることで、回想からの帰還を果たした。二人の思い出は別にクリスマスに限ったことではないのだが、街がこうもクリスマス一色に染まっていると、どうしても近い季節の出来事が浮かんできてしまう。
「(やっぱり楽しいなぁ)」
 由美もまた紫門と街を歩きながら笑顔を浮かべていた。
「あ、なんかいい感じ。ねぇ、紫門」
 時折振り返りながら、呼びかけ店のショーウィンドに並んだ商品やいかにもクリスマスと言った感じのディスプレイを話題に言葉を交わす。
「おー。紫門、向こうにクリスマスツリーがあるって」
 看板から後方へと視線を動かし、由美は紫門の手を取って歩きながら密かに想う。
(「これからもずっと一緒に入れたら良いなぁ」)
 顔が何処か赤いのはイルミネーションのせいではない。ただ、歩けばツリーが近づいてくるのも事実で。ツリーの飾られた広場の近くまで来ると、ツリーの一部を隠していた人混みや街路樹と言ったモノが消えてツリーの全貌が顕わになる。
「うぉ」
 紫門は思わず息を呑む。幾つもの飾りや電飾のついたツリーの姿は二人を圧倒するのに充分だった。
「綺麗だねぇ」
「ああ、綺麗だな」
  木からぶら下がるのはリースにベル、プレゼントを模して梱包された箱。暫く眺めていると人混みの流れでいつの間にか紫門達はツリーの近くまで運ばれて、二人は下からツリーを見上げていた。
「なぁ」
 何げに口を開いて紫門が由美に向き直るまでは。
「に?」
「これからもよろしくな。由美……愛してるぜ」
 照れつつも笑顔で言い終えた紫門へきょとんとした表情を浮かべていた由美は瞳に理解の色を宿すと、彼氏に背を向けツリーの方へと数歩進む。
「紫門、あたしも。……愛してる。My Dear」
 向き直ってそこまで由美が伝えると、背に優しく回された手が身体を引き寄せた。
「……由美」
 それ以上言葉は要らない。目を閉じた由美の唇に紫門の唇がそっと重ねられ、ぬくもりと想いを伝えてゆく。抱く腕に少々力が入りすぎていたような気がするのは緊張故にか。由美が目を開ければ、何処か赤い顔の紫門が居て。まだクリスマスは終わらない、二人のクリスマスは。




イラストレーター名:みささぎ かなめ