御劔・学 & 綾崎・沙奈

●夏より熱い二人の聖夜

「そらっ」
「きゃあっ」
 大きな水音に続いて、プールの水面を幾つもの水しぶきが叩いた。人間二人分の体積が押し出した水の飛沫が宙に舞い、重力に従って落下したのだ。沙奈にとっては予期せぬダイブだったが、時折気恥ずかしげに視線を逸らす沙奈をリラックスさせようとしたのだろうか。着水から二秒ほどで学と沙奈の二人は波打つ水面から顔を出し。
「ほーらほら。せっかくの温水プールだ、こういう時こそ楽しんでおくべきだろ」
「きゃ、……ふふ、お返しです」
 今度は互いに水をかけ始める。楽しげな声はプール全体に良く響いた。窓の外は雪がちらついているが、そんなことなどお構いなしに。手のひらに掬われた水の塊が水音を立て、楽しげな笑い声が水音に混じる。
「そろそろ泳ごうか」
「あ、……学さん、待って下さい」
 やがて水の掛け合いは追いかけっこへと変わり、二人は泳ぎだして。
「うん……やっぱ沙奈は綺麗だな……」
 そうしてどれほどはしゃぎあっていただろう。学は泳ぐのを止めプール岸で立ち上がると、きょとんとした表情で学に倣い立ち上がった沙奈へと真顔で告げた。
「そ、そうですか……? ありがとうございます……」
 言われた沙奈は照れた様に頬を染め、もじもじと胸の前で手を組み替える。ビキニ姿が恥ずかしいのか何処か肌までうっすら染まっていて、水から上がったばかりの身体は濡れそぼってポタポタと雫を垂していた。
「ほら沙奈……」
 そんな沙奈へ差し出されたのはやはり水の滴る学の右手。
「はい……学さん」
 沙奈は差し出された手を握る。握り返してくる手は、暖かくて。身体ごと引き寄せられた沙奈は為すがまま学に抱きしめられる。伝わってくる体温とそれから……言葉では表せない何か。
「好きだよ、沙奈……」
「大好きですよ、学さん。本当に……誰よりも」
 お互いの温もりを感じながら二人は言葉とキスを交わす。二人だけの時間、この時も雪は降り続ける。ヒラヒラと、ヒラヒラと。




イラストレーター名:TOMOMING