●すれ違いのないまちぼうけ
「スュール遅いなー」
雪が降り出した空を見上げるともの。
今日は大きなクリスマスツリーの下 で、ヴァナディースと待ち合わせて、クリスマスデートの予定。
いつもとものより早く待ち合わせ場所に来ているヴァナディースの姿は今日はない。
雪も降り始め次第に、冷え込んでくればとものの頬も赤くなるのだけれども、『ともの可愛い♪』とヴァナディースに抱きしめて貰えると思うとそれ以上に頬を赤くしたりする。
「遅いね」
やっぱり来ない彼を思って、お昼頃に掴まえた黒猫をぎゅっと抱きしめる。
いつもは私より先についているのにと思いながら、自分が抱きしめてもらったら、ヴァナディースのおっきな胸でぬくぬくしてもらおうと黒猫を予行練習の相手にして。小さな黒猫の頭にスリスリしてみる。
「な、なー」
黒猫が鳴く。
何だか上擦った様な焦っている様な声、なのは気のせいではない。
この黒猫はヴァナディースが猫変身した姿で、ヴァナディースが猫変身した姿だという事を、とものは知らない。
(「非常にまずい」)
猫ヴァナディースの心の中の呟き。
昼間とものへのプレゼント偵察中に、ともの自身に捕獲されて今に至る。
現在のとものの(薄い)胸に抱かれるという状況はとても至福な時でもあるが、デートをすっぽかすわけにもいかない。
このまま猫変身を解いて、お待たせとすれば簡単なのだが、そうともいかない理由もある。ここでこの猫の正体がヴァナディース、自分だとばれてしまえば、今までの数々の活動。主に布団への潜入や着替えの観察が、今後一切できなくなるというのは……………非常に勿体ない、もといまずい事。
黒猫はちらりとともの見上げると、ともの顎が黒猫の額に落とされる、その柔らかい感触が心地よくて目を細める。
「ほんとう、どうしたんだろう?」
とものの呟きに白い息ががはき出され、心地よさに時折負けながら、黒猫は必死にここから脱出し、楽しいデートをする方法を一生懸命考える。
もうちょっとだけもうちょっとだけ、まってにゃあ♪
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