今市・直人 & 深田瀬・せり

●When You Wish Upon a Tree

「メリークリスマース!」
「みー……メリークリスマス……♪」 
 小屋の前に響く元気な直人の声に、せりの声が返る。いや、せりが抱えているトラ猫のぬいぐるみ……なずなさんの返事と言うことなのかも知れない。何処か眠たげな眼と無表情。いつものせりらしいといえばせりらしいのだが。
「クリスマスったらやっぱりツリーだよね、うん」
 頷きつつ直人は何処かに消え。
「ってことで、モミの木を貰ってきました」
 次に現れた時はツリーとなる予定のモミの木と一緒だった。余り物だけど、と一言付け加え、直人によって設置された木は飾りなどまるで付いていない。もちろん飾り付けを今からする故なのだが。
(「こういうの、実は初めてだから……楽しみなのです」)
 木を目にしたとたん、せりの顔に変化が訪れた。表情こそ元のままだったが、心なしか頬が紅潮しているように思われる。
「飾りも色々貰ってきたよー。結社の人が来る前に飾り付けを終わらせておきたいね」
(「みんなが来る前にツリーを飾りつけて……びっくりさせるのです、よ」)
 せりがそうやってモミの木を眺めていると、直人はいつの間にかツリーの飾りを持ってきていた。後方からした声に頷き、振り返ったせりの目に飛び込んできたのは電飾に綿で出来た雪、靴下の飾りに使い捨てカイロ、風鈴にくす玉と言ったツリーに飾る為の飾り。
「……クリスマスに関係ないのもあるけど、まあいいじゃないですか!」
 一部ツッコミたくなるような品々を何処かで聞いたような一言で敢えて流して。直人はせりへと向き直った。
「一緒に頑張ろうー、なずなさんも頑張ってね、うん。じゃあ始めようか」
「ふぁいと、おー」
 最後の星を付けさせてあげるねと前置きし、頷いた直人が手にしたのは綿の雪。せりも玉の飾りを手に取って、下方の枝へと吊す。
(「……やっぱり届かないのです」)
 しかし、せりの身長では二個目の飾りを付けようと思った場所は高すぎたらしい。少し妥協して、ギリギリ届く枝へと、飾りに付いた紐を引っかけ、靴下を模した飾りを選んでせりは手に取った。
「バランスが大事だよね、左つけたら次は右〜、みたいにしよう」
 作業の合間に直人のアドバイスが飛んで、幾つ飾りを付けたか。
「どうやらこれで最後だねー」
 最後に残ったのは天辺に飾る大きな星飾りだった。せりは最後の飾りをなずなさんと一緒に抱えてモミの木の先を眺めた。到達不可能なツリーの先にある空が青かった。
(「……ぜんぜん……悔しくなんか、ないのです……」)
 見た目は無口で無表情。それでもせつないものはせつない。
「あ、せりちゃん天辺届くかな?」
 ただ、黙ってツリーの先を眺めるせりの姿に直人は気づいて。
「俺が抱き上げてあげるから、心配いらないよー」
 せりの目の位置が高くなる。いつもは見られない景色が見えて、いつもは届かない高さの枝も触れようとすれば楽々手が届く。
「(……おにいちゃんは、やっぱり優しいのです)」
 せりは小声で呟くと、星を抱えたなずなさんを前へと差し出した。ツリーの頂きに星を飾る為に。

「綺麗に仕上がったねー」
(「頑張って飾ったツリーは、どんなものより綺麗なのです」)
 完成したツリーを笑顔で眺める直人へ、せりは頷く。
(「これでみんなも……サンタさんもきっと喜んでくれるのです……♪」)
「次はケーキとかも用意しないとね!」
 誇らしげにツリーを見上げるせりの背後では、直人がもう一つのクリスマスアイテムを気にし始めていた。




イラストレーター名:一二戻