桐生・未葛 & 紫苑・涙

●甘い夜を

 クリスマスの夜、未葛と涙は2人だけで過ごしていた。外はすっかり冷え込んでいるが、家の中はとても暖かい。……それは、大切な人と共に、過ごしているからなのかもしれなかった。
 部屋の中央に置かれたテーブルの上には、クリスマスにつきもののチキンとケーキ。それはどちらも、未葛が腕によりをかけて作った物だ。
「美味しいかい、涙?」
「ええ、とっても」
 彼女の感想が気になって問いかければ、涙は花がほころぶかのように微笑んだ。
 彼女の口に合ったなら……美味しいと、そう料理を楽しんでくれたなら、嬉しいと未葛は思う。
 ふたりでチキンを分け合って、晩餐を楽しんだ2人は、ケーキを前に笑い合う。
 2人だけで食べるには、少し量が多かっただろうか。チキンだけでもお腹がいっぱいになってしまい、デザートは少し後回し。しばらくの間、静かに穏やかに、2人だけで語らう時間を過ごす。
「………」
 涙はふと、未葛の肩に頬を寄せた。もたれかかるように寄り添う彼女の頭を、未葛はそっと撫でる。
 言葉は無いけど、でも。
 それ以上の、かけがえのない『何か』が、互いの間に通い合うような気がする。
「……今年も色々な事があったな」
 やがて、先に言葉を発したのは未葛だった。2人で共に過ごした時間の数々に思いを馳せれば、次々と思い出が脳裏に蘇る。
「そうですわね。……あの夜、一緒に見た花火は、とても綺麗でしたわ」
 夏には一緒に、花火を見に行ったっけ。船に揺られながら、一緒に見上げたあの夜空は、冬が訪れた今でも、鮮やかに思い出す事ができる。
「コスモスの迷路を歩いた時も楽しかったな」
 秋の終わりの頃には、コスモスも見に行った。まるで迷路のように無数のコスモスが群生していたあの場所を、一緒に散策して、それからお弁当を食べたっけ。
 こうやって振り返れば、いろいろな出来事を共に過ごしていて……あっという間に過ぎていった1年だったような気がする。
 とても、楽しくて――そして幸せな時間の数々。
「来年も、ずっとこうしていられたら良いな」
「はい……」
 心からの願いを紡ぐ未葛。その言葉に頷いて、涙は未葛に寄りかかったまま、そっと瞳を閉じた。

 今日は、クリスマス。
 今夜の出来事も、きっと、2人にとって大切なきらめきの1つになるはずだから――。




イラストレーター名:天がい