天星・龍 & 宵・月亮

●2度ある事は3度ある。二人の聖夜に祝福を!

 
「……来年はお互い、別の相手と、こういう風景を見たいわね」

 思い出すのは過去に自身が口にした言葉。それも月亮にとってここで口にした言葉だ。だから目に映るものも変わらず。ヒビ割れた柱も以前見たまま。いや、ひょっとしたら前よりもヒビは広がっているだろうか。
「……結局、こうなるのね……」
 毎年恒例となってしまった廃教会での逢瀬に月亮は嘆息する。
「また今年も此処に来ちまったな」
「……ええ、解ってるわ。どうせ私を誘えるような業の者は居ないわよ」
 何処かで聞き覚えがあるような龍の台詞に、手のひらを額に押し当てた月亮が何処かすねたように吐き捨てた。
「ま、俺としては大歓迎なんだけどな」
 さらにブツブツと続ける言葉を聞きつつ、龍は肩をすくめる。ゆっくりと立ち上がったのは別に月亮の視線が気になった訳でなく、出番を待つ健気なランタンが視界に入ったからだ。
「何やってんのよ、龍?」
 まともな椅子を見つけて身を預けた月亮の視線を相変わらず背へと受け、屈み込んだ龍はマッチを擦ると廃教会を占拠していた闇に席を空けて貰うべくランタンへ火を灯す。全てのランタンへ火を灯すのに数分。頃合いと見たのだろう、龍は片膝を床に落としつつ口を開いた。
「今宵の聖夜の輝きを貴方の為に。Shall We ダンス? マドモアゼル」
「まぁ、当然ね。 いいわよ、付き合ってあげるわ」
 跪いて差し出された手を苦笑を交えつつも、月亮は取る。ランタンの光に彩られた廃教会はダンスホールへと変貌し、光に追いやられて行き場を無くした闇が二人の姿をとってステップを踏む。ギャラリーも居らず、音楽もないがそこは二人だけのダンスホール。踊りが終われば更に食事会の場へと変貌するのだが。
「そろそろディナーになさいますか?」
 フィニッシュを決めた月亮へ、やはり演技がかった動作と言葉で龍は問うた。

「……知ってる、龍。月の女神様って永遠の処女性を歌われてるのよ?」
「……来年もまた、一緒に此処に来たいもんだな。なぁ俺の女神様?」
 外を見ながら何気なく。夕食の後、月亮の口にした言葉を受けてステンドグラスを見上げながら龍は問いかける。何処かちゃかすように言ったのは、自身の望む答えが返ってくることはないとでも踏んでいるのだろうか。
「気が向いたら付き合ってあげるわ」
 自嘲っぽく苦笑した龍へと月亮は付け加えると朽ちた教会の戸へと歩み寄り、抗議の声をあげる戸へ労働を強いた。
「え? 今、何て?」
 思わず瞬きして龍は問い返すが、視線の先にいる戸は過重労働に抗議するばかりで、龍の女神様は既にそこにいない。
「今確かに……おい、待って」
 ポツリと呟き我に返った龍は、戸に更なる労働を強いると外へと飛び出した。この廃教会が来年も一時限りの主を迎えるのか、それはまだ誰にもわからない。




イラストレーター名:たま