●美女と野獣?
天気は晴れ。
青空の下、銀誓館学園の屋上には学生たちによってクリスマスの装飾がなされていた。
メリークリスマスの横断幕が掛けられた給水塔の前には、なかなか立派なクリスマスツリー。天辺に金色のクリスマスノヴァを頂くツリーには、青や銀のボールや雪の結晶のオーナメント。同じオーナメントが、フェンスにまで飾られており、とても賑やかだ。
うららかな日差しが降り注ぎ、それら全てをきらきらと輝かせている。
リルカと次郎は、ツリーの前に置かれたベンチに座っていた。
次郎の頭は、リルカの膝の上。
リルカは愛おしさのこもった目で次郎の横顔を見ながら、膝枕に頭を預けてくれている彼の耳に、そっと耳掻きの先を寄せる。
気持ちが良さそうに目を細くする彼の表情を見て、リルカも幸せそうに唇をほころばせた。
ひとつの夢だった、膝枕で耳掃除してあげること。
それが叶って、凄く嬉しい。
ついこの間まで、リルカは諦めていた。クリスマスカラーに染まってゆく街を見ながら、今年も1人でケーキ食べることになるのね……と溜息しか出なかったのに……。
それなのに今、私の膝の上には愛しい貴方が居るの。
あまりの嬉しさに、リルカは鼻の奥がツンと痛くなった。視界が霞む。
「……リルカ?」
リルカの手が止まったので、どうかしたのかと次郎が名を呼ぶ。
「なんでもないわ」
次郎に悟られないよう、次郎に涙を落としてしまわないよう、リルカはそっと、目元を指で拭った。
「……嬉しいねぇ」
耳掃除をしてもらいながら、次郎はしみじみと呟く。
シングルベルでないのは、彼にとっても初めてのこと。けれど、そんな形だけのことよりも、今この時が嬉しい。
「私も」
幸せで仕方がない。リルカはまたこぼれそうになった涙を拭った。
「ずっと傍に居てね、次郎」
膝の上の次郎は、もちろん頷いた。
俺こんなに幸せでいいのかね?
思わず心配になってしまった次郎だが、それも一瞬のこと。幸せを味わうのを最優先して、今は放っておこう。そう決めて、次郎は目を閉じた。
今日は冬の北風もお休みしているようで、日なたに座っているとあまり寒さを感じないほどの陽気だ。
しかし、今屋上にいる2人には、天気はあまり関係がないかもしれない。
恋人たちにとっては、そばにいるお互いの存在が何よりも温かいのだから。
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