霧咲・叶 & メイ・トグサ

●Tempo adorato per spendere con due persone.

 枕の隣へと転がっていた猫のぬいぐるみを無造作に除けて、叶はベットに腰を降ろしていた。どこか落ち着くのは、自分の部屋だからか。膝の上の心地よい重みは、膝枕されたメイの頭の重み。膝枕され、目を閉じてメイは何かを口ずさんでいるけれど、何を口ずさんでいるのかは叶には解らない。ただ、猫のように身体を丸めたメイの頭を撫でながら叶もまた目を閉じていた。
「こうやって、カナとずっと一緒に、いられたラ、イイな」
 叶に思わず目を開けさせたのは、メイがふと洩らした一言。
「めっ、めめ、めい、くん……!? スキ、じゃ、ないと、ずっと、一緒には、いられない、よ……?」
 ワンテンポ遅れてうわずった声をあげた叶の膝から、一方の手で目を擦りながらメイは頭を上げ身体を起こす。ベットが微かに軋んだ。
「俺はカナ、好きだヨ」
 もう一方の腕で兎のぬいぐるみを抱きしめたまま返された言葉に、叶の鼓動は早まる。いや、早まる前に止まりかけただろうか。だが、そんなことさえどうでも良かった。
「どれくらい、スキ……?」
 勇気を総動員して、叶は拳を握りしめ口を動かす。別に相手を威圧するつもりなど無い、ただ勢いが必要だったのだ。
「ねーちゃんくらい……?」
「ねー、ちゃん……」
 叶の剣幕にたじたじになりつつもメイが返した答えは勇気総動員による勢いを受け流すのに充分だった。
「……じゃあ……え、っと……き、きす、したい、って、おもう……?」
 脱力間に襲われつつそんなことを口にしたのは、半ばヤケになっていたからだろうが今度の質問は受け流されなかった。
「きす……キス……」
「触れたいって、思う……?」
 呟き、僅かに頬を染めたメイの反応に叶は再び胸の鼓動を早め、期待を乗せてそっと聞いた。
「……っ!」
 答えが返るより早く、メイの手が叶の手に絡み、顔が近づけられて二人の額が触れ合う。言葉はない、至近距離でのにらめっこ。にらめっこが突然終わりを告げたのはメイが叶の唇に唇を重ねたからだった。
「……ねーちゃんはねーちゃんで好き。デモ、カナは……カナは違うね。―――ねーちゃんには、しないよ」
 微笑むメイから唇を解放されて叶は声にならない声をあげる。顔を真っ赤に染め上げながら。




イラストレーター名:水色