●パーティ会場にて
クリスマスの夜、ヒナと静は正装に身を包んでパーティ会場を訪れていた。静はタキシード、ヒナはイブニングドレス。いつもとはちょっと違う姿で、二人並んで会場の中へ入っていく。
「素敵な演奏ですね」
彼らを出迎えたのは、楽器を構えた奏者達が奏でる生演奏の調べだ。厳かな曲から軽快で楽しげな曲へと切り替わり、ホールの中へ響き渡る音色に「確かに」と静が頷き返す。
「……ヒナは参加しなくていいの?」
「私は……今日は、止めておきます」
視線を彼女の方に向け、尋ねた静にヒナは首を振った。静は演奏に参加しなくていいのかと聞いているのだ。このパーティの奏者は飛び入り自由。いつだって、誰だって参加していいのだ。
普段のヒナなら、こんな機会は滅多に無いと、喜んでバイオリン片手に加わっている事だろう。
でも、今日はクリスマス。今夜は……彼と2人きりで、過ごしたいから。
だからヒナは聞き手に回って、静と2人、グラス片手に、奏でられる演奏へ耳を傾ける。
素敵な演奏をBGMに、どれくらいの時間、他愛の無い話に花を咲かせていただろうか。
2人が、ふと気付いた時には、パーティはそろそろお開きの時間。
最後の曲……ラストダンスの時を迎えていた。
「折角ですから、最後に踊りませんか?」
「喜んで」
すっと手を差し出した静の誘いを受け、ヒナは片方の手を彼に預ける。静のリードでダンスホールの中央へ向かうと、2人は演奏に合わせて踊り始めた。
ゆっくりと、互いを思いやるように。
瞳と瞳、見つめあって、大切な人の事を想いながら――。
最後の音色が響き渡って、ホールが静けさを取り戻す。
ダンスの時間は、もう終わり。クリスマスパーティも、お開き。
でも……。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
会場から帰るまで、クリスマスのひとときは終わらない。
頷き返したヒナの手を引いて、ゆっくりとその隣に並んで歩きながら、静は粉雪の舞い始めた会場の外へ出る。
そのまま2人はゆっくりと、帰り道の最後の一瞬まで、ふたりだけのひとときを過ごすのだった。
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