●輝く時の中で
思い出の地、横浜での素敵なディナーを終えた重太郎と志摩は、その足で、赤レンガ倉庫のライトアップを観に向かった。
「今日はゆっくりできるから嬉しいな! 前は夜には帰っちゃったからね!」
「う、うん。今日はゆっくりで、できるね」
長めのマフラーを2人で巻いて、手をしっかりと握り合って歩けば、冬の寒さも気にならない。
眩い光に目を細めながら、港町を歩いてゆくと、そこにはとても素敵なサプライズ!
「うわぁ……! 綺麗だね!」
それは、無数のキャンドルの光。
暖かなオレンジ色に誘われるように、手を繋いだまま光の元へ走り出す。
「ね、一緒にキャンドル置こうよ!」
大喜びで、早速キャンドルに手を伸ばす志摩に、重太郎は優しい笑みをフッと向けて頷くと、ともにキャンドルを手に取った。
ぽわり、ぽわり。
たくさんの小さな光の中に、新たな光がふたつ加わる。
2人は暫し、その柔らかな光に見入っていた。
「せ、世界がこ、こんなにも綺麗なこ、事を教えてく、くれたのは志摩だ、だよ」
ふと、重太郎が恥ずかしそうに呟いた。
「世界が綺麗だって思ったのは重太郎自身だよ? 貴方の感情は貴方だけのものだもの」
その言葉に、にっこり笑顔を向けて応える志摩。
「わ、笑い方も泣き方もぜ、全部志摩がお、教えてくれたんだ」
「でも、私も貴方に出会って色んな私を見つけたんだよ?」
彼女がいたから。
彼がいたから。
あなたがいるから……こんなにも、幸せに満ちている。
「ほ、本当にありがとう。何度で、でも言うよ? 愛しているよ」
重太郎は志摩と片手を繋いだまま、もう片方の手を彼女の背に回し、強く強く抱きしめた。
「……私も愛してるよ、ずっと一緒に……」
けれど。
志摩の言葉は、最後までは紡がれなかった。
それは、言葉の途中で、重太郎の唇が彼女の唇に触れたせい。
───愛してる。
繋いだ手から、触れ合った唇から、言葉はなくとも伝わってくる想い。
耳に聞こえてくるものは、お互いの緩やかな胸の鼓動と、銀の懐中時計が刻む時の音。
柔らかなキャンドルの光が見守る中、2人は、いつまでも手を繋ぎ寄り添っていた。
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