●ふたりの一歩
クリスマスの夜、ふたりは来夏の部屋にいた。
来夏の部屋のこたつで足を伸ばすまこと。
その彼を見ながら、キッチンで料理をつくる来夏。
裁縫は得意だけれども、料理は苦手な来夏は、この日のためにロールキャベツとトマトスープを何度も練習して、今日の日に備えた。
部屋の中は温かく、美味しそうな香りが漂ってくる。
前々から来夏の手料理が食べたいと言っていたまことは、今か今かとそわそわと落ち着かない様子でチラチラと、準備する来夏を見てしまう。
待ちに待った日。
ずっと楽しみにしていたから、失礼かもしれないけど、どんな物が出てきても美味しく食べられる自信がある。
クリスマス直前に付き合いだしたから、その1周年お祝いも兼ねての二人きりのクリスマスパーティ。
こうしてワクワクして待っていると、新婚さんとかもこんな………。なんて考えてしまい、まことはひとりこたつの中でじたばたしている。
その様子は、誰から見ても喜んでいるように見える。
もちろん来夏の目にも、まことがとても楽しんでくれている様子が分り、ほっと一安心。
出来上がったロールキャベツとトマトスープを、まことの待つこたつの上へと並べる。
「先輩……」
来夏の事を呼びかけて、言葉を止めたまこと。
まだ「来夏」と呼ぶのは少し恥ずかしくて、慣れなくて、ついつい「先輩」と呼んでしまう。
それを来夏も知っているから、それ以上何も言わないけど、ほんのすこしだけ一瞬、寂しげに瞳を閉じた。
(「……しかし、いまだオレの事『先輩』なんだよなコイツ……」)
なんて思うものの、料理のセッティングを終える。
付き合い始めてから、もう一年。
いい加減、自分も慣れなきゃ。
きちんと彼女の名前を呼んであげたい。
今年こそはしっかりと名前で「来夏」って呼ぶぞと心に決めていた。
そしてにっこりと笑ってこう続けた。
「いただきます。来夏」
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